研究課題/領域番号 |
16K18489
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
石川 英明 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (80625715)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | RNA / リボヌクレオプロテオミクス / 分子間相互作用 / RNA品質管理機構 / 転写後修飾 |
研究実績の概要 |
本研究はRNAの高感度質量分析の結果明らかになった新規U1 snRNA代謝物であるU1-tfsの発見に基づき、U1-tfs形成に関わる細胞内代謝機構、それに関係するRNPの品質管理機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、初期U snRNA/snRNP 生合成段階の詳細な解析、並行してU1-tfsの形成に関わる3’-5’エキソリボヌクレアーゼのヒトゲノムデータベースを利用した探索を行った。 初期U snRNA/snRNP 生合成段階の解析においては、キャップ形成酵素、Integrator 複合体構成因子、PHAXの核外輸送変異体をベイトとしたPull-Down解析、CBP80およびGemin5をベイトとし細胞分画法と組み合わせたPull-Down解析を行った。その結果、細胞質・核質いずれの細胞画分のCBP80およびGemin5、CMTR1、CMTR2、PHAX変異体にU1/U1-tfsが結合していた。これらの結果を受け、核内に局在する3’-5’エキソリボヌクレアーゼがU1-tfs形成に関わる候補タンパクであると推定し探索を進めた。 3’-5’エキソリボヌクレアーゼの探索においてはUniProt DBを元に24種類をリストアップ、これまでに15種類をクローニング、発現ベクターを構築し局在観察を行った。局在の確認できた13種類のうち、10種類が核内局在を示し、前述の結果と併せてU1-tfs形成に関わるヌクレアーゼの候補とした。これらのヌクレアーゼとその酵素活性変異体、y18Sn-U1-ΔSL4-1発現ベクターとの共発現アッセイから、TOE1タンパクがU1-tfs形成に関わる酵素の候補であるとの結果を得た。そこでTOE1のノックダウンがU1-tfsの減少を引き起こす可能性を検討したが、予想に反してTOE1のノックダウンはU1-tfsを増加させる傾向を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は、U1-tfsが形成される詳細な初期U snRNA/RNPの生合成段階の絞り込みに重点を置き、様々な生合成段階に関わるタンパク質をベイトとしたPull-Down解析を行い、U snRNAの転写から核外輸送前の段階においてU1-tfsが形成されるとする有力な手掛かりを得た。このことを、その後の3’-5’エキソリボヌクレアーゼの探索において有用な情報として活用し、核内に局在するTOE1をU1-tfs形成に関わる候補タンパクとして見出した。残念ながら、TOE1のノックダウンはU1-tfsを増加させる傾向を示し、TOE1自体が直接的なU1-tfsの形成酵素ではないという結果になった。しかしながら、本研究を進めている中、2017年の1月のNature Genetics誌上において、TOE1タンパクは橋小脳形成不全の原因遺伝子としてU snRNA/RNPの生合成そのものに関わっていることが報告され、上記結果と併せるとTOE1が間接的にU1-tfsの形成に関わっている可能性が考えられた。つまり、正常な生合成段階においてTOE1が本来基質としている前駆体U1 snRNA種が、何らかの異常によりTOE1によるプロセスができなくなり、別の3’-5’エキソリボヌクレアーゼにターゲットされることによりU1-tfsが形成されるという可能性である。事実、TOE1のノックダウンにより付加配列を持った前駆体U1 snRNAが生じることをノザンブロッティングにより確認している。 本年度はU1-tfs形成酵素の特定には至らなかったが、U1-tfsが細胞の核内で形成されている事を示唆する結果を得、U snRNAの転写から核外輸送までの間にU1 snRNA/RNPの厳密な品質管理機構が存在する可能性が高い事を明らかにできたことから、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、転写から核外輸送までにU1-tfsが形成されるとの本年度の結果を受けて、転写および核外輸送プロセスに焦点を当てた検証を行い、U1-tfsの形成に関わるU1 snRNA/RNP品質管理機構が存在する生合成段階の特定を行う予定でいる。 3’-5’エキソリボヌクレアーゼの探索については、本年度で候補として挙がっていたが検証できなかったTOE1以外の候補タンパクの検証を引き続き行う予定でいる。また、品質管理機構本体が基質の競合を元に形成されるTOE1を含む複数の3’-5’エキソリボヌクレアーゼのネットワークによるものだとの作業仮説から、U1-tfs形成酵素の特定と並行して、TOE1とU1-tfs形成酵素との関係性を検証項目に含めヌクレアーゼネットワークが品質管理機構本体である可能性の検証も行いたいと考えている。 本年度手付かずであった、もう一種類のU1-tfs形成に関わる酵素であるRNA/アデノシンメチルトランスフェラーゼについての検証もデータベースを利用した解析をスタートさせる予定でいるが、近年、RNAのメチル化酵素と並んで脱メチル化酵素がRNAの代謝に対して多大な影響を持っているとの複数の報告も踏まえ、それらの関与を考慮した解析を行う予定でいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の解析では、U1-tfsが形成される生合成段階の詳細な検討とU1-tfsの形成に必要な2種類の酵素のうち、3’-5’エキソリボヌクレアーゼの探索に重点を置き、もう一種類のU1-tfs形成に関わる酵素であるRNA/アデノシンメチルトランスフェラーゼの検証については手付かずであった。そのために所要見込額に対して11万円程度の未使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の所要見込額と実支出額の差額は、次年度の物品購入費に繰り入れて適正に支出する計画でいる。
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