研究課題/領域番号 |
16K18498
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加藤 公児 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (30452428)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | tRNA Spricing / X線結晶構造解析 / 蛋白質-RNA複合体 / 分子生物学 |
研究実績の概要 |
tRNAのスプライシングはmRNAの自己スプライシングとは異なり、複数のタンパク質性酵素によって触媒される。近年、研究代表者らは多機能性tRNAリガーゼ(Trl1)のリガーゼドメイン(Trl1-LD)の構造を決定し、これまでに提唱されていたライゲーション反応が活性化中間体を経るという仮説を、初めて構造から証明した。本研究では、Trl1-tRNA複合体のX線結晶構造解析を行い、構造をもとにtRNAスプライシングにおける3段階のライゲーション反応の分子機構を解明することを目的とする。 平成28年度はTrl1-tRNA複合体の構造解析に向けて、Trl1各ドメイン及び全長とtRNAエキソンの相互作用解析を行った。Trl1各ドメイン及び全長とtRNAエキソンを個別に調整し、in vitroで混合したのちにゲル濾過クロマトグラフィーを行い、その溶出位置の比較とSDS-PAGE、Urea-PAGEにより、複合体形成の有無を確認した。その結果、Trl1全長とTrl1-LDのみtRNAエキソンと複合体を形成することが確認された。その他のCPDase(Trl1-CD)、キナーゼドメイン(Trl1-KD)は、Trl1-LDと比較してtRNAエキソンとの相互作用が弱く、全長のTrl1ではTrl1-LDの補助的な相互作用を必要とし、それぞれの酵素活性を発揮しているのではないかと考えられる。またTrl1-CDとTrl1-KDの単体での構造決定に向けて、それぞれのサンプルについて結晶化条件を最適化することによって、Trl1-KDについては2.9angstrom分解能のデータを収集することに成功した。またTrl1-CDについては再現性のある結晶化条件を決定でき、分解能10angstrom程度の回折点を確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Trl1-tRNA複合体の構造解析に向けて、Trl1各ドメイン及び全長とtRNAエキソンの結合親和性解析を行った結果、Trl1全長とTrl1-LDにおいてtRNAエキソンとの安定な複合体形成の条件を決定することに成功し、当初の目的を達成した。さらにそれらの複合体については結晶化のステップに進めている。また構造未決定のドメインの構造解析においては、それぞれのサンプルについて結晶化条件を最適化し、Trl1-KDについては2.9angstrom分解能のnativeデータを収集することに成功し、Trl1-CDについては、これまでより高い回折能を持つ再現性のある結晶化条件を決定しているが構造決定には至っていない。Trl1-KDは構造既知のファミリー酵素と相同性が低く(12-20%)分子置換法による位相決定ができなかった。またTrl1-CDについては、さらに結晶化条件を詳細検討し分解能を改善する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
構造未決定のドメインの構造解析において、Trl1-KDについてはSe-Met置換体結晶の作成、またタンパク質自身が持つ硫黄原子の異常散乱を利用したS-SAD法を試み、位相決定を目指す。Trl1-CDについては、さらに結晶化条件を詳細検討し構造決定可能な分解能の回折を起こす結晶を作成し、構造を決定する。さらに決定した機能ドメイン構造情報をもとに活性に密接に関係すると考えられるアミノ酸残基に変異を導入し、それぞれの酵素反応の分子機構の詳細を明らかにする。 Trl1全長とTrl1-LDにおいてtRNAエキソンとの複合体の構造解析については、当研究室保有の自動タンパク質結晶化ロボットを用いて効率よく結晶化条件のスクリーニングを行い、回折実験に適用できる良質の結晶を得ることができたら、シンクロトロン放射光施設にてクライオ条件下でⅩ線回折実験を行う。構造因子の初期位相は、得られたドメイン構造を用いて分子置換法により決定する。 それぞれの構造解析に成功した場合、Trl1-tRNAエキソン複合体との構造比較から、3つのドメインの構造変化そして各ドメインとtRNA間の詳細な相互作用様式を明らかにし、Trl1によって行われる動的な3段階のライゲーション反応機構を解明する。
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