研究課題/領域番号 |
16K18500
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金井 隆太 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (50598472)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Na+ポンプ / イオン能動輸送 / X線結晶構造解析 / パリトキシン |
研究実績の概要 |
パリトキシンはナトリウムポンプの能動輸送を阻害し、チャネル化する毒物である。その作用機序を明らかにするために、パリトキシンと結合したナトリウムポンプの構造解析に取り組んでいる。逆反応から得たE2P状態でパリトキシン(PTX)と結合したナトリウムポンプの結晶構造解析について、既に低分解能の回折データを得ていた。結合したパリトキシンの構造の全容解明を目指して、昨年度に引き続き、① E2P状態の高分解能データの収集、② 重原子を用いた実験位相の決定による構造決定、③ 異なる状態でのパリトキシン複合体の結晶構造解析に取り組んだ。①について結晶化条件の最適化を継続して行った。塩の種類をMgCl2からNaCl2に変えたことにより、これまでとは異なる結晶格子を持つ結晶が得られたが、3 Åを超える回折データの収集には至っていない。② これまでに4種類の重原子置換体結晶のデータ収集に成功したが、実験位相の決定には至っていない。その原因は重原子の占有率が低く、十分な重原子シグナルが得られていないためと考えられる。③について昨年度、パリトキシン存在下で新たにE1・nNa+状態の結晶化に成功した。当初、パリトキシンとの複合体を念頭に置いて開始したものだが、E1・nNa+状態は輸送機構を考える上で極めて重要な状態であることから、パリトキシン非存在下でも結晶化を試みた。その結果、同様にE1・nNa+状態の結晶が得られ、結晶化条件の最適化により分解能を大幅に向上することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パリトキシンと結合したE2P状態の結晶構造解析については結晶性の改善が見られず、また重原子の結合も貧弱であるために、結合したパリトキシンの全容を明らかにできず、やや遅れている。一方、反応機構を考える上でより学術的に価値の高いE1・nNa+状態と考えられる結晶が得られ、想定以上に大幅な分解能の向上に成功した。また、高濃度のNa存在下でE2P状態の結晶化に成功した。これはE2Pより1つ前の中間状態E2P・nNa+の構造である可能性があり、パリトキシン結合のみならず、能動輸送機構の理解に大きく役立つものである。
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今後の研究の推進方策 |
パリトキシンと結合したE2P状態の結晶構造解析については結晶化に用いている高塩濃度が重原子結合の障害になっていることが予備実験から明らかになった。そこで、重原子ソークする際の塩濃度を下げることで、十分な重原子シグナルを得らえるようにし、結合したパリトキシンの全容を明らかにする。 E1・nNa+状態については国際的な競争に打ち勝つためにも、まずはパリトキシン非存在下でのE1・nNa+状態の構造解析に集中する。本構造はパリトキシン結合と直接、関わるものではないことから、今後、本課題から切り離して扱うが、本課題の過程で得られた重要な成果である。一方、パリトキシンと結合したE1・nNa+状態について、まずはE1・nNa+状態に対するパリトキシンの結合を生化学的に確かめた上で、パリトキシン非存在下での結晶化条件を参考に結晶化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本課題初年度において蛋白質試料の供給元であるデンマークAarhous大学Bente Vilsen教授のグループで機材の故障と人材の入れ替えが重なり、蛋白質試料の供給がおよそ半年間停止した。昨年度はその遅れを取り戻すべく取り組んだ結果、E1・nNa+状態の結晶解析で大きな成果を得たが、E2P状態の構造解析は結晶性の問題で想定より遅れており、課題期間を1年延長する必要性が生じたためである。 (使用計画) 引き続き、パリトキシンと結合したE2P状態やその他の状態の結晶構造解析を遂行するため、実験全般の経費、SPring8(兵庫県), PF(茨城県)での回折測定のための旅費、また成果発表のための学会参加、論文投稿費に充てる。
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