パリトキシン(PTX)はナトリウムポンプの能動輸送を阻害し、チャネル化する毒物である。その作用機序を明らかにするために、PTXと結合したナトリウムポンプの構造解析に取り組んでいる。E2P状態でPTXと思われるナトリウムポンプの結晶構造について、既に低分解能の回折データを得ていた。結合したPTXの構造の全容解明を目指して、昨年度に引き続き、① E2P状態の高分解能データの収集、② 重原子を用いた実験位相の決定による構造決定、③ 異なる状態でのPTX複合体の結晶構造解析に取り組んだ。 ①については結晶化条件の最適化の他に、出来た結晶の脱水処理条件の最適化を行った。特に脱水処理についてはこれまでも様々な方法で試みていたが、いずれもうまくいかず困難であったが、今回、エチレングリコールで脱水処理後に高濃度PEGでさらに脱水処理という二段階で行ったところ、ようやく分解能3Åを得られるようになり、より結合したPTXの構造を解像できるようになった。 ②について、これまでに4種類の重原子置換体結晶のデータ収集に成功したが、実験位相の決定には至っていなかった。その原因として、結晶化に用いている塩濃度が高すぎて、タンパク質に重原子が十分結合できないと考えられたため、結晶中の塩濃度を下げたところ、複数の重原子置換体を調製することができた。現在、その実験位相の決定を試みている。 ③について昨年度、大きな成果であったE1.nNa+状態の結晶化についてはPTX非結合状態でも十分大きな学術的意義があるため、本課題から切り離して別課題として取り組んでいる。その他に、既に結晶化条件が決まっているE2.2K+.MgF状態やE1.AlF.ADP.3Na+状態について、パリトキシンとの共結晶化を試みたが、今のところ、PTXと結合した構造は得られていない。
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