研究課題/領域番号 |
16K18502
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
永江 峰幸 名古屋大学, シンクロトロン光研究センター, 特任助教 (90735771)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 圧力 / 蛋白質結晶の分解能向上 |
研究実績の概要 |
X線結晶構造解析法によって精密な構造情報を得るには,良質の結晶を用いて高分解能の回折データを収集する必要がある.しかし研究の対象とする蛋白質の結晶化に成功したものの,いざX線を当てると低分解能の回折データしか得られないという事態にしばしば直面する.従って蛋白質結晶の結晶性を改善し分解能を向上させる方法が必要である.申請者はこれまでに,低分解能の回折データしか得られない結晶でも,圧力をかけることで分解能が顕著に向上する例を見出している.一方,圧力と分解能の関係を体系的に調べ,報告した研究例はこれまでにない.本研究では,どういった条件の結晶ならば加圧による分解能向上の効果が大きいのかを明らかにし,圧力を分解能向上のツールとして用いる際の指針を示すことを目的とする.28年度は先ず最初に再現良く結晶化する試料蛋白質結晶の準備を行なった.いくつかの試料蛋白質の調製と結晶化を試みた結果,ヒトユビキチンの立方晶結晶,HIV-1 RNaseHの直方晶結晶,ウシ肝臓カタラーゼの直方晶結晶については再現性の高い結晶化方法を確立することが出来た.蛋白質結晶の中には圧力の上昇に伴って溶解度が増すものがあるため,各試料蛋白質結晶を実際に加圧し溶解の有無を調べた.その結果,ユビキチン結晶は加圧による溶解が見られ,RNaseH結晶とカタラーゼ結晶は溶解が見られなかった.ユビキチン結晶については,圧力媒体中の沈殿剤濃度を上げることで溶解の問題を解決した.結晶の加圧条件の検討の後,あいちシンクロトロン光センターのビームラインBL2S1とPhoton FactoryのビームラインAR-NW12Aにて,常圧下~高圧力条件下で回折データを収集・比較し,加圧による分解能向上の有無を調べた.ユビキチン結晶とRNaseH結晶は加圧によって分解能が向上し,カタラーゼ結晶は分解能が向上しないことが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では種々の試料蛋白質結晶を用いて加圧による分解能向上の有無を調べ,さらには圧力を分解能向上のツールとして用いる際の指針を示すことを目的とする.これまでにユビキチンの六方晶結晶については加圧することで分解能が顕著に向上することを見出していた.28年度はユビキチンの立方晶結晶についても高圧力条件下の回折実験を行い,加圧によって分解能が向上することを明らかにした.従って分解能の向上は蛋白質結晶のパッキングではなく,各蛋白質分子の性質によると推察される.次にRNaseH結晶についても加圧によって分解能が向上することを確認したが,しかしユビキチン結晶よりも分解能向上の効果が小さいことが分かった.カタラーゼ結晶については分解能の向上はほぼ見られなかった.従って加圧による分解能向上の効果は,試料蛋白質の大きさに依存しており,比較的小さい蛋白質分子の結晶であれば期待できることを確認できた.これらの結果から28年度の研究が順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は順調に推移しているので,このまま計画通りあいちシンクロトロン光センターのビームラインBL2S1とPF-ARのビームラインNW12Aで常圧から高圧力下の回折データを収集し,解析を行う予定である.28年度の結果から,加圧による分解能向上の効果に分子量依存性が確かめられた.29年度はこの仮説に基づき,分子量に注目して試料蛋白質を選択し常圧から高圧条件下の回折データを収集し比較を行う予定である.またユビキチン,RNaseH,カタラーゼの各蛋白質結晶について,常圧と高圧力条件下でフルデータを収集して構造解析を進める.これによって常圧構造と高圧構造を比較し,加圧による分解能向上のメカニズムを調べる.
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