本研究では種々の試料蛋白質結晶を用いて加圧による分解能向上の有無を調べ,さらに加圧による分解能向上のメカニズムを明らかにすることを目指した.28年度にユビキチン,HIV-1由来RNase H,ウシ肝臓由来カタラーゼの結晶について再現性の高い結晶化方法,加圧可能なバッファ条件を確立し,高圧力下で回折データを収集した.加えて29年度はサーモライシンについても再現性が高い結晶化方法を確立した.サーモライシン結晶は加圧によって溶解するため,圧力媒体にPEGを添加することで溶解を防ぎ,高圧力下の回折データ収集に成功した.これらの回折データを解析した結果,分子量が小さいユビキチンは加圧によってデータの統計値と分解能の向上が顕著に観られた.一方で分子量が大きいカタラーゼは向上が観られなかった.それらの間の分子量を持つRNase Hとサーモライシンについては,統計値と分解能の向上は観られたが,しかしユビキチン結晶よりも小さかった.従って加圧による結晶性・分解能の向上は,分子量に依存していると推察される.このメカニズムを調べるため,各蛋白質結晶について高圧力下の構造解析を行なった.カタラーゼを除く全ての蛋白質結晶で,高圧力下で蛋白質の水和水が顕著に増加することが明らかとなった.高圧力下では体積が小さい状態へと系がシフトしていくため,水和サイトに水が留まり易くなったと考えられる.水和殻の秩序化によって,結晶全体の回折能が向上していると考えられる.従って小さい分子ほど蛋白質自身に対して水和殻の体積の比が大きいため,寄与が大きいと推察される.蛋白質の大きさのみに依存し,その種類や結晶化条件に依らず分解能を向上させるという点が本手法の特徴と考えられる.本課題によって初めて圧力と分解能の関係性が明らかになった.
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