研究課題
1.ポリユビキチン線維の原子レベル構造解析測定したポリユビキチン線維の固体NMRスペクトルはブロードなピークで構成されており、原子レベルの線維構造決定するためには十分では無かった。そのため、本年度は試料調製方法の再検討に取り組んだ。熱変性に加え、Couette cellを用いた撹拌を用いて線維形成に取り組んだ。同時に、線維形成における緩衝液のpHや塩濃度などの条件検討も行なった。2.線維反応中間体解析による構造学的線維形成機構解明ジスルフィド結合を利用して作製したポリユビキチン線維反応中間体は準安定状態にあることが分かり、不可逆的に単量体に変化することを観察した。溶液NMRスペクトルを測定することにより、様々な温度条件下における反応速度定数を決定し、アレニウスプロットを作成することで中間体から単量体に移行する反応の活性化エネルギーを求め、熱力学的特性を定量化した。3.ポリユビキチン線維の重水素交換実験ポリユビキチン線維の重水素交換実験を行なったところ、ネイティブ状態の立体構造からは予想できない結果が得られた。一般的に、水素結合を形成しているあるいは立体構造の内部にあるアミド水素は重水素交換から保護されており、溶媒中に露出したアミド水素は比較的重水素交換が速い。だが、ネイティブ状態でベータシートを形成している幾つかのアミノ酸は、線維状態では重水素交換から保護されておらず、ネイティブ状態でループを形成し溶媒中に露出しているアミノ酸の幾つかは、線維状態では重水素交換から保護されていることが分かった。これらの結果は線維形成に伴い大きな構造変化があることを示唆しており、線維構造解析に重要な知見を与えることが出来た。
2: おおむね順調に進展している
ポリユビキチン線維の固体NMR構造解析については、研究計画当時の期待に反し、シャープなピークが得られなかった。しかし、シャープなピークが得られないことは計画段階で予想しており、現在、鋭意、線維試料調製方法の再検討を行なっている。アミロイド線維の固体NMR構造解析において、均一な試料を調製することは非常に重要であり、本研究では綿密に試料調製方法の検討を行なう予定である。一方、「線維反応中間体解析による構造学的線維形成機構解明」や、「ポリユビキチン線維の重水素交換実験」については計画通り、順調に進展しており、興味深い知見を得ることが出来た。特に、重水素交換実験については、線維形成に伴う構造変化部位をアミノ酸レベルで特定することが出来た。プロリン残基に隣接しているアミノ酸が、ネイティブ状態と線維状態で変化していることを観察しており、プロリンのシス-トランス異性化反応が線維形成反応に密接に関与していることが示唆された。
H28年度に取り組んだ3つのテーマは継続して研究を進め、結果がまとまり次第、国際学術雑誌に論文を投稿する。特に、「ポリユビキチン線維の原子レベル構造解析」における固体NMRに最適な試料調製方法の確立は、より多くの時間を要することが予想されるため、本年度ならびに来年度も継続する予定である。また、H29年度は「モノユビキチンとポリユビキチン鎖とのダイナミクスの差異」の研究を中心的に取り組む。モノユビキチンは、構造的に強固で立体構造のゆらぎもほとんど観測されず、線維形成もしない。一方で、ダイユビキチン(ユビキチン二重合体)は、モノユビキチンと非常に酷似した立体構造を持つが、熱力学的に不安定化しており、アミロイド様線維を形成する。本研究では、立体構造ゆらぎに注目し、熱力学的に不安定化しているダイユビキチンに構造ゆらぎがあるかNMR緩和実験により検証する。既に予備実験において、異なる結合型のダイユビキチンの構造ゆらぎを検出している。本年度では、構造ゆらぎの部位の特定、定量ならびに分子動力学を用いたシミュレーションにも取り組む予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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