研究課題/領域番号 |
16K18513
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本間 謙吾 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (60708171)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | SOD1 / 構造変化 / 亜鉛 / 亜鉛トランスポーター / ALS |
研究実績の概要 |
本研究は、ALSの原因となる変異型SOD1と小胞体膜タンパク質Derlin-1の結合を介した小胞体ストレスによる運動神経細胞死誘導機構の知見に基づき、野生型SOD1がALS発症に関与する可能性について検証することを目的としている。 これまでに、野生型SOD1であっても亜鉛欠乏という環境要因により、変異型SOD1と同様の構造に変化し、Derlin-1と結合することを報告し、この構造変化を介在する分子の同定を目的としたゲノムワイドsiRNAスクリーニングを実施していた。 今年度は、スクリーニングにより亜鉛欠乏依存的な野生型SOD1の構造変化を促進する分子として見出された亜鉛トランスポーターZIP13に着目して解析を行った。その結果、ZIP13の発現抑制により確かに野生型SOD1の亜鉛欠乏依存的な構造変化が抑制されることを、スクリーニング系とは異なるより確からしい実験系にて確認した。また、ZIP13が分泌経路に局在することから、SOD1の構造変化には分泌経路の亜鉛がなんらかの形で重要な役割を担っているのではないかと考え、分泌経路に局在する他の亜鉛トランスポーターのSOD1構造変化への関与を検討したところ、同様に発現抑制により構造変化を抑制する亜鉛トランスポーターを複数見い出した。 本研究成果は、細胞全体や細胞質の亜鉛欠乏ではなく、亜鉛欠乏依存的に起こる分泌経路内の亜鉛動態の変化という、細胞内の局所的な変化が野生型SOD1の構造変化を引き起こしていることを示唆している。今後は、細胞内の局所的な亜鉛動態の変化がSOD1構造変化を引き起こす分子機構を解明し、これらの要因により構造変化した野生型SOD1がALS病態に関与する可能性の検証を行なっていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
亜鉛欠乏依存的なSOD1構造変化に対する亜鉛トランスポーターZIP13の検討については概ね予定通りに進んでいる。ZIP13が真のSOD1構造変化制御遺伝子であることを確認するとともに、ZIP13が分泌経路に局在することに着目することで、分泌経路の亜鉛制御が亜鉛欠乏依存的なSOD1構造変化に重要であることを示唆する結果を得ることに成功した。しかしながら、ZIP13を細胞に過剰発現するとゴルジ体の異常と細胞死が観察されることから、ZIP13のどのような機能がSOD1構造変化に関わっていうか、その分子メカニズムの解析はあまり進んでいない。 その他の亜鉛関連分子の解析については、予定よりも進行が遅れている。 特にメタロチオネインの解析については、機能の類似したファミリー分子が多く存在し、発現抑制の特異性や発現抑制のSOD1構造変化に与える影響などを精査できていない。
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今後の研究の推進方策 |
ZIP13の発現がどのようにしてゴルジ体にダメージを与えるか検討した結果、亜鉛輸送能ではなく、発現するZIP13のタンパク質量が重要であることがわかった。そこで現在、1細胞あたりに発現するZP13量を少なくすることで、ゴルジ体異常を引き起こすことなくZIP13を発現できる実験系を樹立している。今後は、発現システムを最適化し、ZIP13依存的な構造変化をとらえることで、ZIP13のどのような機能がSOD1構造変化に必要であるかを検証していく予定である。さらには、分泌経路に存在するSOD1構造変化を制御するその他の亜鉛トランスポーターとの関係性を精査することで、実際に亜鉛のどのような変化がSOD1構造変化を誘導するかその詳細を明らかにし、野生型SOD1が構造変化する分子メカニズムと、野生型SOD1のALS病態への関与を検証する。 その他の亜鉛関連分子についても、実際にSOD1構造制御因子であるかを検証し、その分子メカニズムを検討する予定である。
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