ミトコンドリアを選択的に分解するマイトファジーは、ミトコンドリアの品質管理を行う酵母からヒトまで保存された重要な生理機能である。栄養飢餓などのマイトファジー誘導条件において、カゼインキナーゼ2(CK2)によるマイトファジーレセプターAtg32のSer114/Ser119残基のリン酸化がマイトファジーの最初のステップであるが、CK2は恒常的に活性を有するキナーゼであるにもかかわらず、マイトファジー誘導時にのみAtg32がリン酸化される制御機構はこれまで分かっていなかった。平成28年度は、CK2と拮抗してAtg32の脱リン酸化に関与していると推定されるプロテインホスファターゼPpg1を同定し、PPG1遺伝子破壊株において、(1)CK2かつSer114/Ser119依存的にAtg32の恒常的リン酸化が生じること、(2)選択的オートファジーのアダプタータンパク質であるAtg11とAtg32の飢餓に依存しない相互作用が見られること、(3)マイトファジーレベルの亢進が見られることを見出した。平成29年度は、Ppg1の更なる解析を進め、以下の点を明らかにした。(1)PPG1遺伝子の破壊も過剰発現もバルクなオートファジーや他の選択的オートファジーに影響を与えなかった。(2)プロテオミクスを用いてPpg1と相互作用する因子を探索し、Far3-11の6つの因子から成るFar複合体を見出した。Far10以外の5つの因子の単独破壊株は、PPG1破壊株と同様の特徴を示した。(3)オートファジーのコア因子の一つであるAtg13の恒常的活性化型変異体(Atg13-8SA)をPPG1遺伝子破壊株で発現させると、マイトファジー非誘導条件下においてもマイトファジーが誘導されたことから、Atg32のリン酸化とオートファジーのコア因子の活性化の二つの条件がマイトファジーの十分条件であることが明らかとなった。
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