研究課題/領域番号 |
16K18515
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
椎村 祐樹 京都大学, 医学研究科, 特定研究員 (40551297)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グレリン受容体 / 抗体 / GPCR |
研究実績の概要 |
本研究は、グレリン受容体のX線結晶構造解析に資するグレリン受容体立体構造認識抗体を取得することを目的としている。平成28年度は研究計画に基づき、①抗原の作製、②免疫および③スクリーニングを行い、23株のグレリン受容体の立体構造認識抗体を作出することに成功した。 ①抗原の作製:CHO細胞を発現宿主として、リポフェクション法でグレリン受容体を遺伝子導入し、グレリン受容体高発現株を作製した。また同時に、別の抗原作製方法として精製グレリン受容体をリポソームに再構築するプロテオリポソーム法も検討し、グレリン受容体のプロテオリポソームを作製した。 ②免疫:グレリン受容体ノックアウトマウスと自己免疫疾患マウスの2系統のマウスに対して、免疫を行った。10~14日ごとに3回免疫を行い、ELISA法によって血清中の抗体価が十分に上昇していることを確認した。脾臓摘出後、脾臓細胞とミエローマ細胞を融合させることでハイブリドーマ細胞を作製した。 ③スクリーニング:ハイブリドーマ細胞の細胞上清を用いて、各種ELISA法およびゲル濾過クロマトグラフィーによってグレリン受容体立体構造認識抗体株をスクリーニングした。その結果、23株がグレリン受容体立体構造認識抗体であることが示唆された。さらにFACS解析によって、うち1株が細胞外認識抗体であることが示唆された。 本研究によってグレリン受容体のX線結晶構造解析に資する抗体を取得し、立体構造を決定することができれば、生命活動に重要なホルモンであるグレリンの認識機構を明らかにすることができ、グレリン研究において長年の課題であった、グレリンの脂肪酸修飾の生理学的な意義を明らかにすることができると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は研究計画に基づき、①抗原の作製、②免疫および③スクリーニングを行い、23株のグレリン受容体の立体構造認識抗体を作出することに成功した。 ①抗原の作製:グレリン受容体の発現宿主細胞を、当初の計画にあったBa/F3細胞からCHO細胞に変更した。これは、Ba/F3細胞にリポフェクション法で遺伝子導入することが困難であったためである。検討の結果、エレクトロポレーション法であれば遺伝子導入が可能であったが、当研究室に機器がなく、恒常的な実験が不可能であったため断念した。一方でCHO細胞は、リポフェクション法での遺伝子導入が可能であり、比較的容易にグレリン受容体高発現株を作製することができた。また同時に、別の抗原作製方法として精製グレリン受容体をリポソームに再構築するプロテオリポソーム法も検討し、グレリン受容体のプロテオリポソームを作製した。 ②免疫:研究計画にあったグレリン受容体ノックアウトマウスへの免疫に加えて、自己免疫疾患マウスへの免疫を行った。3回の免疫によって血清中の抗体価が十分に上昇していることを確認し、ハイブリドーマ法によって抗体産生細胞を作製した。 ③スクリーニング:スクリーニングの結果、23株のグレリン受容体立体構造認識抗体であることを取得した。さらにFACS解析によって、うち1株が細胞外認識抗体であることが示唆された。 いくつかの点で研究計画を見直す必要があったが、各ステップにおいて問題点を解決し、現段階までに当初の見込みを上回る立体構造認識抗体および細胞外認識抗体を取得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、作出した抗体がグレリン受容体の熱安定性に寄与するか、さらに細胞外認識抗体については細胞内シグナルに影響を及ぼすか検討する。 作出した抗グレリン受容体抗体産生細胞株は、100 mLで拡大培養して培養上清からIgGを精製する。さらに、精製したIgGをパパイン処理することによってFabを作製する。作製したFabと精製グレリン受容体を混和してCPM assayによって複合体の熱安定性 (Tm値) を検討する。グレリン受容体単体と比較してTm値を向上させたFabが複数ある場合は、抗体産生細胞株からRNA抽出を行い、逆転写後、シークエンスをチェックする。Tm値を向上させることが確認されれば、グレリン受容体と複合体を形成させて、結晶化を行い、結晶形成を促進させるか検討する。 細胞外認識抗体は、FACSによってグレリン受容体細胞外ループのどの領域を認識しているかさらに詳細に検討する。グレリン受容体は7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体 (GPCR)に属しており、3つの細胞外ループを形成している。この細胞外ループをそれぞれ独立して別GPCRのループに置換することで、抗体がどのループを認識しているか明らかにする。さらに、Ca2+フラックスアッセイまたはレポーターアッセイによって細胞内シグナルに影響を及ぼすか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度は、免疫原の調整と抗体作製を中心に研究を進めた。遺伝子導入方法が、当初予定していたエレクトロポレーション法からリポフェクション法に変更になったが、おおまかな実験条件の検討がすでに十分に行えていたこともあり、順調に研究を進めることができた。そのため追加の実験の必要が少なく、結果として今年度の執行額が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度は実験が順調に進んだ。また期待されていた以上の抗体クローンを作出することができた。29年度は、これらの抗体の機能解析および論文作製を行う。機能解析に十分量の抗体を精製するために培地や精製のための試薬やカラムが総じて増加することが考えられるため、次年度使用額は、これらに充てる予定である。
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