研究課題/領域番号 |
16K18517
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
出嶋 克史 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (60457439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 亜鉛輸送体 / C. elegans / RNAi / 小胞輸送 |
研究実績の概要 |
二本鎖RNAやマイクロRNAを始めとする機能的RNAは、標的となるRNAの配列特異的に遺伝子の発現を抑圧する働きを有する。すなわち、これら機能的RNAはRNA干渉(RNAi)を引き起こす。機能的RNAは基本的には細胞内で働く分子であるが、一部は細胞外へ放出され、細胞非自律的に遺伝子発現調節を担うことが知られる。こうした特性があるため、病気の原因となるような遺伝子の発現を抑えるような目的で機能的RNAは核酸医療薬へ応用できる可能性を秘めている。しかし、生体内で機能的RNAの多くがどのように細胞外へ放出され、それが細胞によってどのように取り込まれるかについては未だ不明な点も多く、核酸医薬品への応用は十分に進んでいない。線虫C. elegansでは、二本鎖RNAが細胞間を伝播して、RNAiが全身性に生じる。この点に着目して、二本鎖RNAの伝播機構を理解するべく、RNAiにより引き起こされる表現型の強弱を指標に機能性RNAの細胞間伝播に関わる遺伝子の探索を行ってきた。順遺伝学的なスクリーニングによって、これまでに細胞内の小胞に局在するある種の亜鉛輸送体が機能性RNAの取り込み過程に必要であることを明らかとしてきた。この亜鉛輸送体は、酵母からヒトまで広く保存されており、ヒトではユビキタスに発現している。線虫で、発現レポーターを作成し、その発現を調べたところ、腸管や咽頭で強く発現するが、上皮など、それら以外の組織でも広く発現することが明らかとなった。本研究では、亜鉛輸送を手がかりに、二本鎖RNAが細胞間伝播する分子メカニズムを明らかにしていく。これまでに、国際学会(East Asia worm meeting, FAOPS2019やEurope worm meeting) でポスター発表を行ってきた。East Asia worm meeting では、ポスターアワードを受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
線虫C. elegansにおいて、亜鉛輸送体は、亜鉛を細胞質側へ取り込むタイプの輸送体が14種類、逆に細胞外へ放出するタイプのものが14種類存在する。同定した亜鉛輸送体以外でも同様な働きがあるかどうかという点に迫るべく、これら全遺伝子のノックアウト線虫を用いて、それらの変異体におけるRNAi効率を検証する実験を計画した。遺伝子ノックアウトには、既に日本国内のナショナルバイオリソースプロジェクトや海外のKOコンソーシアム(アメリカ合衆国およびカナダ)で単離されているもので半数近くの遺伝子をカバーすることができたが、残りの遺伝子については、CRISPR/Cas9法にて、独自に遺伝子欠失株を作成した。興味深いことに、遺伝学的スクリーニングによって得られた輸送体遺伝子以外の変異体では、いずれの株においてもRNAi効率に異常は認められなかった。したがって、本研究の遺伝学的スクリーニングで得られた亜鉛輸送体はユニークな働きを有する可能性がある。その一方で、哺乳類細胞などでは、一部の亜鉛輸送体は機能的重複をしていることが知られる。他の亜鉛輸送体の変異体でRNAi効率に異常が生じなかったのは、亜鉛輸送体間の機能的な重複による可能性も否定できない。 本輸送体の細胞内局在に関して、これまでに、腸管での解析を行ってきた。解析には、本輸送体遺伝子のプロモーター下に本遺伝子のコーディングシークエンスとtagRFPを融合させたコンストラクトを線虫に発現させることで解析した。一連のオルガネラマーカーとの重ね合わせ実験にて、詳細な局在を決定したところ、腸管では、主に後期エンドソームに局在することが明らかとなった。上皮でも同様の実験を行い、同じく後期エンドソームに局在するという結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、亜鉛輸送体遺伝子の網羅的な解析では、本研究で得られている亜鉛輸送体がユニークな働きを有する可能性が示唆された。一方で、輸送体間の機能的重複により、RNAi効率に異常が認められなかった可能性もある。今後の予定として、哺乳類で機能的重複が指摘されているZnTの多重変異体を作成し、その株におけるRNAi効率を検証する。また、分子メカニズムに関して、十分な見解は得られていない。線虫C. elegansでは外来性RNAと内在性RNAi (endogenous RNAi)がアンタゴニスティックに機能することが知られる。このため、endogenous RNAIが破綻すると、外来性RNAiの効率が上昇し、一見外来性RNAiを抑圧する因子の異常が生じているように見える可能性がある。そこで、本研究で追求している遺伝子の変異体の表現型がendogenous RNAiの破綻による可能性を検証する。具体的には、endogenous RNAi 経路の変異体で生じる別の表現型(温度感受性の不稔)が追求している遺伝子変異体においても生じるかという点を調べる。また、変異体におけるendogenous RNAi経路の標的遺伝子の発現がどうなっているかという点を定量的RT-PCRにより検証する。加えて、RNAiの取り込み過程に関わる可能性を調べるべく、擬体腔に二本鎖RNAをインジェクションして、変異体でRNAiの効率が上昇している否かを調べる。二本鎖RNAの取り込みに関わる可能性が生じた際には、各種オルガネラマーカーの分布様式を変異体と野生型で比較することで、小胞輸送のどの過程に影響がでているかを推定する。また、インジェクションRNAi法を用いて、亜鉛やそのキレーターがdsRNAの取り込みやRNAi効率にどのような影響を及ぼすかという点についても解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)消耗品として、遺伝子工学(enzymes: DNA polymerase, RNA polymerase, restriction enzymes, purification kits, DNA sequencing etc.)やイメージングに要する試薬、プラスティック器具などを購入する予定であったが、一部の解析が予定通りに進まなかった、あるいは、遺伝子破壊など、一部の手法を効率的に進めることができたため、次年度使用額分の未使用金が生じた。(使用計画)更なる実験の効率化に努めて、当該年度に計画していた実験を速やかに次年度に行い、旅費や遺伝子工学やイメージングに要する試薬を中心に消耗品などの購入を計画している。
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