研究課題
本研究の目的は、Ngly1とENGaseのほ乳動物における未知の機能解明である。また、研究実施計画における当該年度の予定は、「Ngly1欠損により生じる異常の解明」と「N-GlcNAc仮説の検証」であった。「Ngly1欠損により生じる異常の解明」に関しては、予備的知見で示した異常に加え、マウス発生時に貧血や浮腫といった異常がNgly1欠損により生じることを発見した。興味深いことに、浮腫はENGaseの追加欠損により回避されるが、貧血は回避されないことも発見した。また、タンパク質分解系(ユビキチン-プロテアソーム系、オートファジー)との関連については細胞レベルでの解析に取り組んだ。ユビキチン-プロテアソーム系に関しては、プロテアソーム阻害剤(MG132)処理でユビキチン化タンパク質の挙動変化を調べたが、Ngly1-KO細胞に特異的な変化は観察されなかった。オートファジーに関しては、細胞を飢餓状態で培養し、オートファジーが誘導される程度を比較した結果、Ngly1欠損によりオートファジーの誘導が低減する傾向が見られた。「N-GlcNAc仮説の検証」に関しても、細胞レベルでの検証に取り組んだ。本仮説では、Ngly1欠損下でENGaseが特定の糖タンパク質に作用し、タンパク質にN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が1残基残ったタンパク質(N-GlcNAcタンパク質)を産生し、それが有害な働きをしている、と考えている。そこで、Ngly1-KO細胞とNgly1;Engase-KO細胞の細胞質中の糖タンパク質を比較解析した。その結果、Ngly1;Engase-KO細胞により多く蓄積している糖タンパク質(即ち、Ngly1欠損下特異的にENGaseが作用し得る糖タンパク質)を12個同定した。得られた成果から、国際学会の口頭・ポスター発表を1件、投稿論文を1報発表することができた。
2: おおむね順調に進展している
当該年度においては、予定外の研究代表者の所属研究機関の異動(理化学研究所から順天堂大学への異動)があったため、研究に用いるサンプルの異常等に時間を費やし、想定していたよりも研究の遂行は遅れた。しかしながら、平成29年度で予定していた「Ngly1欠損で生じる異常の中でENGase欠損により抑制可能/不可能な異常の同定」に関しては、マウス発生段階における異常の中で、浮腫はENGase欠損により抑制可能、貧血はENGase欠損により抑制不可という結果がすでに得られている。前項で示した研究実績の概要の中のいくつかの実験に関しては、異動によるタイムロスで実験数が不足しているため、若干の進行遅れがあるが、全体としてはおおむね順調に研究は進展していると言える。
平成29年度は、平成28年度に行った「Ngly1欠損により生じる異常の解明」と「N-GlcNAc仮説の検証」に関してデータが不足している部分の追加実験と、実施計画で予定していた「Ngly1欠損で生じる異常の中でENGase欠損により抑制可能/不可能な異常の同定」に取り組む。「Ngly1欠損により生じる異常の解明」に関しては、Ngly1欠損とタンパク質分解系の関連について、統計的に有意な違いがあるかどうかを議論するための再現実験を細胞レベルで取り組む。何か顕著な違いを同定できれば、その減少について個体レベルでの解析にも取り組みたい。「N-GlcNAc仮説の検証」に関しては、平成28年度に同定した12個の糖タンパク質について、それらの機能とNgly1欠損により生じる異常との関連を調べる。まずは、同定した12個の糖タンパク質の機能について文献などを調べ、特に、Ngly1欠損により生じる異常と関連がありそうな糖タンパク質から、ノックダウン/ノックアウトを細胞レベルで行い、Ngly1欠損により生じた異常がどのように変化するのかを調べる。「Ngly1欠損で生じる異常の中でENGase欠損により抑制可能/不可能な異常の同定」に関しては、平成28年度にすでに発見した貧血と浮腫以外に、第一項で示したタンパク質分解系との関連などについても、ENGase欠損がそれらの現象に関与しているのかを調べる。
消耗品の購入が予定していたよりも若干少なかったため。
使用額に相当する研究に必要な消耗品の購入に当てる。
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PLOS Genetics
巻: 13(4) ページ: 1-23
10.1371/journal.pgen.1006696