研究課題/領域番号 |
16K18523
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
柴田 幹大 金沢大学, 新学術創成研究機構, 准教授 (80631027)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タンパク質 / 神経科学 / プロテインキナーゼ / 走査型プローブ顕微鏡 / 原子間力顕微鏡 / 高速原子間力顕微鏡 / バイオイメージング / ナノサイエンス |
研究実績の概要 |
CaMKIIは脳の神経細胞に豊富に存在し、様々な薬理学実験や遺伝子欠損マウス等の実験から、“記憶分子”と考えられている。CaMKIIは12量体を形成し、高頻度刺激を積算(記憶)することができるため、多量体構造の中に“記憶の分子メカニズム”が隠されていると考えられてきたが、それを実証する手法がこれまでなかった。本研究では、高速原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、12量体中の個々のCaMKIIの振る舞いをリアルタイムで直接可視化し、CaMKIIがどのような分子メカニズムで信号を積算(記憶)できるのかを明らかにする。本年度は、全長CaMKIIαとハブドメインのみを発現したCaMKIIαの2種類に対し、高速AFM観察を適用した。その結果、ハブドメインのみを発現したCaMKIIαでは、7つのサブユニットが対称リング構造を形成し、そのリングが上下に重なった対称ダブルリング14量体構造を形成することを明らかにした。一方、キナーゼドメインまで含む全長CaMKIIαの高速AFM観察では、6つのサブユニットがリング構造を形成し、上下に重なったダブルリング12量体構造を形成することを明らかにした。興味深いことに、全長CaMKIIαは対称リング構造をとらず、リングの一部が欠けた構造をとることが分かった。これは、ハブドメインはサブユニット同士を集合し、対称リング構造を形成しようと働くが、キナーゼドメインにより、その対称性は破られるという多量体構造におけるアロステリック効果の存在を強く示唆する。この一部が欠けた非対称リング構造は、ハブドメインとキナーゼドメインの間にあるカルモジュリン結合サイトを露出し、カルシウム/カルモジュリンが容易にアクセスできるよう最適化されているように見える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハブドメインのみを発現したCaMKIIαの高速AFM観察により、AFM画像に現れる球状構造が、どちらのドメインに由来するのかを明らかにすることができた。また、高速AFM観察条件、特に観察バッファーの塩濃度を詳細に検討することで、AFM基板とCaMKIIとの吸着をコントロールし、キナーゼドメインの揺らぎを観察することができた。さらに、研究当初は予想もしていなかった、キナーゼドメインの存在が及ぼす多量体構造のアロステリック効果を発見することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、カルシウム/カルモジュリン結合に伴うCaMKIIαの構造変化を可視化し、さらに、CaMKIIαよりもハブドメインとキナーゼドメインを繋ぐループが短いCaMKIIhβ7に対しても高速AFM観察を行い、ループの長さの違いが、どのように高速AFM画像に現れるのかを明らかにする。これらの結果を元に、 カルシウム/カルモジュリンの結合に伴う12量体内の協同的効果を検証する。
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