CaMKIIは脳の神経細胞に存在し、記憶の形成に重要な役割を果たす。CaMKIIは巨大な12量体を形成し、Ca2+の高頻度刺激を積算(記憶)することができるため、多量体構造の中に“記憶の分子メカニズム”が隠されていると考えられてきたが、個々のCaMKIIの動態を1分子レベルで検出する手法がこれまでなく、その詳細は不明であった。本研究は、CaMKIIに高速AFMを適用し、個々のCaMKIIの直接イメージングから、多量体構造に潜む記憶の分子メカニズムを明らかにする。本年度は、ハブドメインのみを発現したCaMKIIα-Hubと、全長CaMKIIαに対し、高速AFMを適用し、多量体の構造解析と、そのダイナミクス観察を行った。CaMKIIα-Hubでは、12量体と14量体のリング構造が観察され、その存在比から14量体がメインであることが分かった。一方、キナーゼドメインを含む全長CaMKIIαは、12量体と14量体のリング構造が観察されたが、メインは12量体であることが分かった。これまで、CaMKIIαの14量体構造の存在は報告されていなかったが、高速AFMによる溶液中の観察により、初めて14量体が確認された。さらに、高速AFM動画により、キナーゼドメインとリンカー部分は柔軟な構造をとることが明らかとなった。特に、CaMKIIα阻害剤の添加により、柔軟なキナーゼドメインとリンカー部分が、固い構造に変化することを見出し、この部位の柔軟性が、Ca2+/カルモジュリンの結合に重要であることが示唆された。これらの結果から、信号を積算するための分子集合能力はハブドメインが担い、その一方で、キナーゼドメインの存在がCaMKIIαの多量体構造を制御し、さらに、リンカー部分の柔軟な構造がCaMKIIαの活性化状態に重要であることが示された。
|