研究課題
本研究課題では転写活性化に関与するヒストンのアセチル化に着目し、クロマチンの最小構造単位であるヌクレオソームコアのアセチル化によって誘導される構造やゆらぎの変化を明らかにすることを目的としている。昨年度までの研究においてアセチル化されたヌクレオソームはアセチル化によって構造安定性が低下することが示唆された。そのため、本年度は、アセチル化された部位の同定法の検討と、構造変化をMDシミュレーションによって明らかにする上でのセットアップを行った。まず、アセチル化部位を同定するために、配列解析手法を検討した。従来、タンパク質の1次構造解析を行う際、酵素消化したサンプルを質量分析で同定するボトムアップ法が用いられる。しかし、主に用いられる消化酵素であるトリプシンはリジンやアルギニンを認識し断片化するために、塩基性アミノ酸の多いヒストンのテイル領域の解析には向いていない。そのため、タンパク質を丸ごと質量分析内で壊すトップダウン法の一つであるMALDI-ISDによる配列解析を行った。その結果、ヒストンのテイル領域に対応するフラグメントイオンが顕著に観測されることがわかった。さらに、アセチル化したヒストン、ヌクレオソームでも解析を行ったが、それぞれのサンプルにおいてテイル領域の配列情報を得ることができた。現在はこの方法をアセチル化されたヌクレオソームに応用する条件を検討している。また、ヌクレオソームの構造変化をMDシミュレーションによって解析するために、塩濃度の異なる条件で溶液中のMDシミュレーションを行った。その結果、塩濃度の変化はヌクレオソームのコア構造には影響を与えないが、テイル領域の多様性に影響を与えることがわかった。現在は500mMのシミュレーションを行っているので、より高い塩濃度における変化とアセチル化されたヌクレオソームのシミュレーションへ発展させていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
これまで行ってきた方法では、ヒストンテイル領域の部分的な配列しか得られなかったのに対し、今年度確立した方法では、テイル領域の全領域の情報が得られることになった。そのため、アセチル化部位を同定する準備ができたと考えている。また、異なる塩濃度におけるヌクレオソームのMDシミュレーションを行った。このため、実験だけでなく計算手法からもアセチル化によるヌクレオソームの構造変化を解析することができるようになった。
今後は本年度構築したMALDI-ISDを用いてアセチル化されたヌクレオソームのアセチル化部位を同定したいと考えている。また、Native質量分析から明らかになったアセチル化によるヌクレオソームの構造安定性の低下を明らかにするために、水素/重水素交換反応質量分析を用いて安定性が低下したヒストンを同定する。この実験的なアプローチに加えて、アセチル化されたヌクレオソームのMDシミュレーションを行うことで構造安定性低下の原因について考察する。上記の結果が得られ次第、モノヌクレオソームからダイヌクレオソームへ研究を発展させる。
次年度使用額が生じた理由としては、申請時において計画していた論文校閲などの経費が加算されていないことなどが挙げられる。発生した経費は一部物品費にも使用するが、基本的には予定していた経費に主に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
Science
巻: 356 ページ: 205-208
10.1126/science.aak9867
http://seeds.office.hiroshima-u.ac.jp/profile/ja.483df99524c32264520e17560c007669.html
http://www.mls.sci.hiroshima-u.ac.jp/biochem/Biochem_publication_KS.html