研究課題/領域番号 |
16K18529
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
扇田 隆司 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (80737263)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細菌Ⅲ型分泌装置 / タンパク質分泌速度評価 / 競合ELISA系 / 回転-分泌相関 |
研究実績の概要 |
緑膿菌等の細菌は、注射器型のⅢ型分泌装置 (T3SA)を介してエフェクターと呼ばれるタンパク質を宿主細胞内に注入して感染するが、T3SAのエフェクター輸送機構は未だ解明されていない。本研究では「T3SAがニードル内壁にある疎水性アミノ酸螺旋と逆方向に回転することで、エフェクタータンパク質を輸送するのではないか」という仮説の検証を目的とする。この仮説を検証するため、T3SAの回転速度とエフェクター分泌速度を定量解析するための実験系を構築し、これを用いて種々条件での両者の相間を調べる。 本年度は、エピトープタグ (3FLAG)標識エフェクター発現プラスミドを形質転換した緑膿菌株を用い、タグ量を競合ELISA法にて定量することで、細菌培養上清中に分泌されたエフェクター量を定量できる実験系を構築し、この実験系を用いて測定したエフェクター分泌速度が、以前に観察したT3SAの回転速度と相関する可能性を見出した。 また、3FLAG標識エフェクター遺伝子をゲノムに組み込んだ緑膿菌株を作製し、同実験系を用いて天然状態でのエフェクター分泌量も評価できることを確認した。この際、天然状態でもプラスミドから過剰発現させた場合と同様の、経時的な上清中エフェクター量の増加が認められたが、分泌量およびエフェクター発現量は少なかった。これは、菌体内エフェクター量に依存してエフェクターがT3SAに装填される効率が変化するためと考えられる。 以上、当該年度の研究で、エフェクター分泌速度の定量評価系が構築でき、Ⅲ型分泌の回転速度とエフェクター分泌速度との相関について、その妥当性を見出すことができた。また、Ⅲ型分泌の制御における菌体内エフェクター量の重要性も見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では当該年度中に、①T3SAニードル内疎水性アミノ酸欠損緑膿菌を作製し、そのエフェクター分泌活性を定量評価する、②以前に構築したT3SAの回転運動評価系を改良して回転方向を検討する、まで進める予定であった。しかし、当該年度中に②の回転方向の評価はできておらず、進捗状況はやや遅れている。 現時点で、エフェクター分泌活性を定量的に評価するためのウエスタンブロットおよびELISA実験系は構築できている。また、エフェクター分泌の定量評価には、3FLAGタグ修飾エフェクター発現緑膿菌株を作製する必要があるが、タグ修飾エフェクター遺伝子をゲノムに組み込んだ緑膿菌株は完成した。また、T3SAニードル内疎水性アミノ酸欠損緑膿菌の作製については、完成はしていないものの、現在進行中であるため、エフェクター分泌速度の定量評価についてはおおむね順調に進んでいる。 一方、②の回転方向の評価は現時点でできていない。しかし、回転方向を評価するためのプローブとしてのストレプトアビジンコート金ナノロッドはすでに構築できている。また、T3SAへの回転プローブの標識等は以前に確立した方法を用いるため、回転方向の評価も次年度中に完了すると期待できる。 以上の状況から、研究全体の進捗状況としてはやや遅れているものの、研究期間内に当初研究目的を達成することは可能であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
当初研究計画では、テトラシステインタグ-FlAsH-EDT2系を用いてエフェクター分泌をリアルタイムで定量評価することを考えていたが、今回、3FLAGタグを用いたELISA系にて評価したエフェクター分泌量では、FlAsH蛍光からエフェクター量を定量するのは感度的に困難と予想される。そこで、エフェクター分泌速度の評価については、本年度に構築したELISA系を用いてまずは評価していくことにする。また、T3SAの回転方向評価系について優先的に構築を進め、これを用いてT3SAの回転方向及び回転速度の定量評価を行う。これら両実験系を用いて、種々条件でのエフェクター分泌速度およびT3SA回転速度の定量評価を行い、回転-分泌相関を調べる。また、ニードル内疎水性アミノ酸螺旋欠損緑膿菌が完成し次第、これについても回転運動とエフェクター分泌活性を評価し、エフェクター分泌における疎水性アミノ酸螺旋の必要性を検討する。以上の検討をH29年度中を目途に行う。 H30年度は、H29年度に得られた回転-分泌相関に関する知見を基に、上記実験系を改良したリアルタイムでの回転-分泌相関評価系の構築を目指す。この評価系構築には、特にエフェクター分泌量のリアルタイム定量が必要になると予想される。これについては、銀ナノ粒子の表面増強蛍光効果などを利用して上清中に分泌された蛍光ラベル化エフェクターの検出感度を向上させる等の方法を検討していく。 以上の計画に則って、Ⅲ型分泌装置の回転-分泌相関をより詳細に調べ、研究期間内にT3SAを介したエフェクター分泌メカニズムの解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、本年度中にⅢ型分泌装置の回転方向評価系を構築する予定であった。しかし、エフェクター分泌の定量評価の実験に時間がかかったため、当年度中に回転方向評価系の構築まで研究を進めることができなかった。このため、回転方向評価系の構築実験に使用予定であった物品費等を次年度に繰り越し、この実験を次年度に行うことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
当該繰り越し金については、本年度実施予定であったⅢ型分泌装置の回転方向評価系構築の実験を次年度に行う際、その物品費に充てる予定である。
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