研究課題/領域番号 |
16K18532
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
森 義治 北里大学, 薬学部, 助教 (90646928)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アミノアシルtRNA合成酵素 / スレオニルtRNA合成酵素 / スレオニン / タンパク質合成 / 分子動力学シミュレーション / 結合親和性 / 結合自由エネルギー / 構造サンプリング |
研究実績の概要 |
前年度に作成したスレオニルtRNA合成酵素の構造モデルを使用し、リガンドであるスレオニンの結合親和性(結合自由エネルギー)を計算するために分子動力学シミュレーションを実行した。スレオニルtRNA合成酵素は生体内で二量体として存在するため、本シミュレーション計算においてもそのような考慮をして計算を行った。さらに、酵素のN末端領域はスレオニン結合にほとんど関係がない領域であることが分かっているため、N末端ドメインを除いた初期構造から計算を行った。これらにより精度の高いモデリングを行うことが可能となった。 初期構造として使用した結晶構造において二量体のそれぞれの領域は構造が異なっており、これは結晶構造中におけるリガンドの有無に起因する。結合親和性の計算に加え、これらの構造の違いが結合親和性にどのような影響を及ぼすかも調べた。 二量体のそれぞれのリガンド結合領域近傍にスレオニンを配置し、結合親和性の計算を行った。結合親和性の計算は、通常多くの計算をする必要があり、適切な構造サンプリング法を使用することが重要である。本研究では複数回のアンブレラサンプリング法を使用し、構造サンプリングを行った。 分子動力学シミュレーションによる結合親和性計算の結果、一方の単量体において、スレオニンはアミノ酸結合サイトに非常に適合することが分かったのに対して、もう一方の単量体での結合親和性は低かった。これはアミノ酸結合サイトにおいて、スレオニルtRNA合成酵素は適切な構造をとる必要があることを示している。特に、近傍のアミノ酸の水素結合パターンが異なっており、これが安定化に大きな寄与をしていると考えられる。またスレオニンが酵素に結合する際には、アミノ酸結合サイトに存在する水分子を排除し結合する必要があり、これが結合の活性化自由エネルギーの原因として考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に構築したモデルからスレオニルtRNA合成酵素におけるリガンドの結合自由エネルギーを計算することができ、さらにそれに対する分子科学的な考察をすることができたため。例えば、自由エネルギー安定領域におけるリガンドのタンパク質に対する結合様式、活性化自由エネルギーと溶媒分子である水分子との関係、およびリガンド周辺のアミノ酸の水素結合様式が分かったことがあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの計算では、主に結合するリガンドであるスレオニンのみを扱ってきたが、スレオニルtRNA合成酵素のスレオニン選択性を理解するためにスレオニンと類似したアミノ酸であるセリン・バリンの結合性を比較する分子動力学シミュレーションを行う。得られた結果に対してアミノ酸結合サイト近傍のアミノ酸残基の立体構造や物理化学的相互作用による観点から解析を行う。例えば、それぞれのアミノ酸(スレオニン・セリン・バリン)と近傍のタンパク質中のアミノ酸残基間の距離を計算し、水素結合形成の有無などを調べ、結合するアミノ酸に対する特異性が存在するかどうかを特定する。 さらに、特定したアミノ酸が生物学的に重要であるかを評価するためにバイオインフォマティクスによる評価が重要であると考えられる。当初の計画にはなかったが、これまでに得られた結果をさらに進めるために有用であると思われるので、これも加えて推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進行にともなって、必要なハードディスクは比較的十分にあることが分かり、必要以上の購入をしなかったことから次年度使用額が生じた。 より必要性が増したのは、高速なディスクアクセスが可能なファイルサーバである。今後の研究の推進に記載したように、バイオインフォマティクスによる手法を使用することが必要となり、これを達成するために以上のサーバを購入する計画である。
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