研究課題/領域番号 |
16K18533
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
柳川 正隆 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 研究員 (70609792)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | GPCR / 代謝型グルタミン酸受容体 / 1分子イメージング / 拡散係数 |
研究実績の概要 |
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は低分子薬の約30%の標的になるなど、創薬において主要な位置を占めている。現状、薬の標的分子となっているGPCRは全体の約6%に過ぎず、100種程度はリガンド未知のオーファン受容体である。従来、GPCRの活性評価は下流の細胞応答の計測に依存してきたが、オーファン受容体では下流が未知の場合も多く、何を薬効評価の指標とすればよいか分からない。したがって、GPCR自体を計測して活性を定量する手法の開発が求められる。 我々は、過去に代謝型グルタミン酸受容体をモデルとして1分子イメージングを行い、細胞膜上での受容体の拡散係数が活性とよく相関することを明らかにした。しかしながら、活性化依存的な拡散の変化の背景にある生理的現象については不明な点が多い。本年度は、Gタンパク質を百日咳毒素で阻害した際に生じるmGluRの拡散状態の変化を定量した。その結果、インバースアゴニスト・アゴニスト存在下の双方で、mGluRの拡散が遅くなることが示された。特に拡散の変化はインバースアゴニスト存在下で著明であり、mGluRがGタンパク質と不活性状態においても結合した状態が存在し、この状態が速い拡散係数を持つことが示唆された。 また、mGluRで同定した拡散・機能相関の一般性を検証するために、進化的に異なるファミリーに属する8種類のGPCRについて、同様に1分子計測を行った。アゴニスト依存的な拡散係数の変化を定量した結果、計測したすべてのGPCRで活性化依存的な拡散係数の低下が認められた。したがって、ホモロジーや下流のシグナル伝達経路を問わず、幅広いGPCRの活性を拡散係数という単一の指標で定量できることが示された。本研究は、1分子計測によるGPCRの薬理学・創薬につながる重要な一歩であると考えられたため、論文投稿・特許出願・国内外の学会での発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、平成28年度は、mGluR3と下流分子(Gタンパク質・βアレスチン)が相互作用している拡散の状態を定量し、過去の研究で認められた活性化依存的なmGluRの拡散係数の低下の背景を突き止める予定であった。我々はまず、百日咳毒素によるGタンパク質の阻害実験を行った。その結果、百日咳毒素処理により、著明にmGluR3の拡散が遅くなることが明らかになった。この変化はVehicle刺激や百日咳毒素のBオリゴマー刺激では認められなかったため、Gi/oの選択的な阻害に由来するものであることが示された。当初はアゴニスト存在下でのみ変化が見えることを期待して実験を行ったが、実際にはインバースアゴニスト存在下でより著明な変化が認められた。この結果は、不活性状態においてmGluR3がGi/oとプレカップルをしていることを示唆するものであり、活性化に伴うGPCR/Gタンパク質複合体からのGタンパク質の乖離が拡散係数の低下をもたらしていると推測された。 また、拡散・機能相関の一般性の検証については平成29年度以降を予定していたが、HaloTag融合GPCRのcDNA調製が順調に推移したため、平成28年度中に8種類(ADRB2・HTR2A・HRH1・ADORA2A・FFAR4・CXCR4・F2R・GCGR)のGPCRについて1分子計測を行えた。その結果、計測したすべてのGPCRでアゴニスト依存的に拡散が遅くなることが判明し、受容体のアミノ酸配列やリガンドの化学的特性、下流のシグナル伝達系を問わず1分子イメージングを用いて幅広いGPCRの活性を定量できる可能性が示された。本研究成果は、GPCRに対する新たな化合物評価手法に応用できるため、平成28年度中に国内外の学会で発表を行った。また、同内容について特許出願、論文投稿を行った。以上のように、本研究は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最大の課題は、GPCRにおける拡散・機能相関の一般性の検証であったが、平成28年度中におよその目途が立ったと言える。ただ、9種類のGPCRを比較すると、活性化依存的な拡散変化の度合いに違いが認められるため、今後はこの違いがどのような生理的背景により生じるのかを突き止めたい。 まず、2色同時1分子イメージングにより、βアレスチンとGPCRの共局在をアゴニスト存在・非存在下で計測し、上記のGタンパク質との相互作用以外にGPCRの拡散を変える要因を探りたい。もし、内因性のβアレスチン等の影響により2色同時1分子イメージングが上手く機能しない場合は、CRISPR/CAS9による内因性のβアレスチンのノックアウトなどを検討したい。 また、どの程度幅広いGPCRに対して本手法が適用可能かをより幅広く調査することは、生理活性物質のスクリーニングを行うなどの応用面で重要である。順次、HaloTag融合GPCRのcDNAを構築し、網羅的な拡散・機能相関の解析を進めたい。GPCRのcDNAについては、Addgene経由で314種類のcDNAを入手済みである。また、将来的な応用を目指すためには、1分子イメージングの効率化を図る必要がある。1分子計測ではGPCRの発現量を相当抑制する必要があり、GPCRが低発現した細胞を効率よく調製する条件の検討を図りたい。具体的には、CMVプロモーターが部分削除された低発現ベクターの評価などを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、概ね計画通りの物品購入を行った。次年度使用額の4,893円については、平成28年度中に消耗品を小さな単位で購入して使い切るよりも、平成29年度に繰り越して大きな単位を購入した方が単位あたりではより安価に消耗品が購入できると判断したため生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、300種類程度のHaloTag融合GPCRのcDNA構築を行う必要があり、定常的な分子生物学実験の消耗品の購入が見込まれる。また、構築が完了したGPCRから順に培養細胞にトランスフェクションし、1分子イメージングを行うため、細胞培養用の消耗品が定常的に必要になる。さらに、1分子イメージングの際に、各GPCRについてリガンド刺激が必要であり、各GPCRに対するリガンドの購入が必要である。
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