研究課題
ミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異によって引き起こされるミトコンドリア病の複雑な病態形成機構の一部を解明する目的で、mtDNAの突然変異(大規模欠失突然変異型mtDNA:ΔmtDNA)と、核DNAにコードされたミトコンドリア関連遺伝子の機能不全(ミトコンドリア分裂因子、Drp1の肝臓・血球特異的KO)という2つの病因要素を併せもつモデルマウス(Drp1 KO/Mito-miceΔ)の解析を行っている。これまでの解析から、Drp1 KO/Mito-miceΔは野生型Drp1を有する通常のMito-miceΔより肝臓と血球のいずれにおいても重篤な病態を呈することが明らかになってきた。Drp1のKOによりミトコンドリアが分裂不全となって膨大化し、本来ダメージを受けたミトコンドリアをターンオーバーするために備わっているMitophagy機構の進行が阻害されることが、病態の重篤化の原因ではないかと考えている。ΔmtDNAの含有率が高く、機能低下したミトコンドリアが分解されずに残存することで、組織におけるΔmtDNAの蓄積速度が速まっていることなども示唆された。これらの結果は、ミトコンドリアの分裂がΔmtDNAによる病態発症を抑制する重要な要素となっていること、またミトコンドリア病の病態が、mtDNAの突然変異だけでなく、核DNAコードのミトコンドリア関連遺伝子によっても大きく左右されることを意味している。これまでに得られた成果を2つの学会で発表し、そのうち1つにおいてベストプレゼンテーション賞を受賞した。現在、肝臓の病態解析から得られた結果を中心にまとめた論文を作成し、投稿準備中である。血球の病態解析も進めており、その成果は現在まとめている論文とは別の論文として発表する予定である。
2: おおむね順調に進展している
Drp1 KO/Mito-miceΔでは、野生型Drp1を有する通常のMito-miceΔと比較して、短寿命や組織におけるミトコンドリア呼吸活性の低下、重度の貧血、血球分化の異常など、多くの観点から病態がより重篤化していることが確認された。従来、ミトコンドリアの機能を維持するにはミトコンドリアの分裂よりも融合が重要であるとの報告が多かったが、今回の結果は、ΔmtDNAの蓄積により病態発現の抑制にミトコンドリアの分裂が関与していることを示唆しており、従来の知見だけでは説明できない何らかのメカニズムが想定された。そこで、ΔmtDNAが時間の経過とともに増加していくこと、病態発症の抑制にはそのΔmtDNAを多く含んだ機能低下ミトコンドリアを積極的に排除することが必要であろうということを考慮し、ミトコンドリアのターンオーバー機構として知られるMitophagyプロセスに着目した。Mitophagyが起こるためには対象となるミトコンドリアがAutophagosomeに包まれる必要があるが、分裂不全で膨大化したミトコンドリアは大きすぎて包むことができず、結果的にMitophagyが進行しないのではないかと考えたためだ。検証の結果、Drp1 KO/Mito-miceΔの肝臓組織のミトコンドリアではMitophagyの準備プロセスは確認されたが、Mitophagyの進行や完了を示す変化は認められなかった。このことから、Drp1 KO/Mito-miceΔの組織では本来なら分解される機能不全に陥ったミトコンドリアが残存し、結果的に組織の呼吸機能低下に結びついていると推測された。本研究課題は、1年目終了時点で上記のような成果を挙げており、計画当初の期待に概ね沿っていると判断している。今後、血球の異常についても精力的に解析を進め、一定以上の成果を挙げたいと考えている。
本課題は、1年目は上述の通り概ね期待通りの成果を挙げているが、今後の研究計画における当初との大きな変更点として、研究代表者の出産に伴う産前産後休暇とそれに続く育児休業取得に伴う事実上の空白期間が挙げられる。休業中は研究代表者による具体的な解析や実験の遂行は不可能であるが、研究計画調書の研究体制の項目にも記載の通り、本研究は研究代表者が指導する大学院生と共同で進めているため、代表者が不在であっても当該期間のマウスの維持管理やサンプルの採取、一定の解析等は可能である。すでに当該学生には必要となる情報や技術等の引き継ぎを完了しており、代表者不在の間は当該学生と連絡を取りつつ最低限の維持管理と解析を継続する予定である。肝臓の病態については1年目で大部分を解析済みであり、2年目は血球の病態解析やデータのとりまとめが主となる予定である。解析に必要なサンプル等は1年目から蓄積されており、また共同で本課題に携わっている学生との連携により、代表者が休業から復帰した後に速やかに本格的な解析が実行できるような体制となっている。休業期間中の課題進捗の遅延を完全に阻止することは難しいが、影響は最小限にとどめられるものと考えている。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~jih-kzt/index.html