研究課題/領域番号 |
16K18542
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
大坪 瑶子 基礎生物学研究所, 細胞応答研究室, 特別研究員 (80580266)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分裂酵母 / 栄養応答 / 有性生殖開始 / tRNA |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞に普遍的に備わる、栄養状態に応答して適切な制御を行う機構の解明を目標に、分裂酵母の栄養源飢餓応答をモデル系として、解析を進めている。 分裂酵母は栄養が枯渇すると、増殖を停止して有性生殖を行う。これまでに、栄養応答に関わる新規因子を単離することを目的として、栄養源が豊富な環境でも有性生殖を開始してしまう変異株を複数株取得し、hmt (hyper mating and temperature sensitive) 変異株と名付け、解析を行っている。hmt変異の原因遺伝子として、tRNAの合成やアミノアシル化に関わる因子が複数得られていたことから、tRNA自体が栄養応答機構の重要なファクターである可能性が考えられる。そこで、窒素源枯渇時にtRNAの生合成系に変化が生じていないか検討した。ノザンブロットにより、分裂酵母野生型株で窒素源枯渇がtRNAの発現量やアミノアシル化に与える影響を調べたところ、顕著な変化は見出せなかった。しかし、tRNAの前駆体の発現量が窒素源枯渇後に大きく減少していることがわかった。さらに、tRNAのプロセシングに関わる因子などを利用したtRNA前駆体の過剰発現システムを構築し、実際に、tRNA前駆体を過剰発現できることをノザンブロットにより確認した。この前駆体tRNAを過剰発現した分裂酵母細胞では、窒素源枯渇時のTOR複合体1(TORC1)の不活性化が阻害されていることがわかった。さらに、有性生殖開始も抑圧されていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、産休、育児休暇の取得のために、全ての実験を計画通りに行うことができなかった。未同定のhmt11、hmt12変異株の原因遺伝子の決定、およびhmt変異の原因遺伝子として特定されたアミノアシルtRNA合成酵素やtRNA関連因子に関する詳細な解析などは、当初の計画通りに進めることができなかった。栄養源の変化とtRNAの関係については、tRNA前駆体が窒素源認識機構の一員としてTORC1経路の上流で働いているという新たな可能性が示された。現在、これらの結果をまとめた論文の投稿にむけて作業を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、未同定のhmt変異株の原因遺伝子の決定を試みる。また、hmt変異の原因遺伝子として特定されたアミノアシルtRNA合成酵素やtRNA関連因子の発現や局在などを調べ、栄養源枯渇時にどのような変化が見られるかを観察する。さらに、野生型株で窒素源が枯渇するとtRNA前駆体が減少することがわかったので、hmt変異株でもtRNA前駆体の発現量が減少しているかを調べる。また、窒素源枯渇時にtRNA前駆体がどのような機構で減少するのか、tRNA前駆体がどのようにTORC1経路に作用して有性生殖開始を制御しているのかをより詳細に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、産休、育児休暇取得のために、全ての実験を計画通りに進めることができず、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度計画通りに進めることができなかった未同定のhmt11、hmt12変異株の原因遺伝子の決定を試みる。また、並行して、次年度に計画していたhmt変異株の多コピー抑圧因子の単離も行う。さらに、本年度と次年度に計画していたhmt変異の原因遺伝子として特定されたアミノアシルtRNA合成酵素やtRNA関連因子の発現や局在、相互作用などを調べ、どのような変化が栄養源枯渇時に見られるかを観察する。また、本年度の解析により、野生型株で窒素源が枯渇するとtRNA前駆体が減少することがわかったので、次年度はtRNA前駆体に特に注目して解析を行う。
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