研究課題/領域番号 |
16K18544
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
大谷 哲久 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 助教 (50415105)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 密着結合 / 上皮細胞 / 上皮管腔構造 / 張力 / ZO-1 / 上皮極性 |
研究実績の概要 |
上皮細胞の形態的・機能的分化には細胞間接着装置とその裏打ちとなる細胞骨格が中心的な役割を果たしている。本研究においては、イヌ腎臓由来MDCK II細胞をモデル系として、密着結合の裏打ちタンパク質ZO-1/ZO-2に着目し、密着結合を起点として細胞の張力がどのように適正に保たれ、上皮管腔構造の形成が制御されているのかを明らかにする。 今年度は、ZO-1/ZO-2 double KO細胞(dKO細胞)の表現型解析を重点的に進め、dKO細胞において密着結合が形成されないこと、またミオシンの異常な集積が認められることを明らかにした。興味深いことに、先行研究とは異なり、dKO細胞においては通常は側基底部面に限局して局在するタンパク質が頂端部面に漏れ出ることが観察され、ZO-1/ZO-2が上皮極性形成に必要であることが明らかとなった。また、dKO細胞においては上皮極性形成に関わるシグナル伝達分子であるPar-3やaPKCの局在異常が観察された。これらの結果から、密着結合が上皮極性形成に必要であることが明らかとなった。 さらに、上皮管腔構造の形成にZO-1/ZO-2が関与するかを検討するために、コラーゲン・ゲル中で3次元培養を行った。親株MDCK II細胞をコラーゲン・ゲル中で培養したところ、シスト構造が形成されたのに対し、dKO細胞においてはmultilumenのシストが形成された。これらの結果から、ZO-1/ZO-2が上皮管腔構造の形成に関与すると考えらえた。 以上の結果から、ZO-1/ZO-2が上皮バリア形成に必須であり、張力の適正化にも関与すること、またZO-1/ZO-2が上皮管腔構造の形成に関与することが明らかとなった。また、これまでの報告とは異なり、ZO-1/ZO-2が上皮極性形成に必要であることが明らかとなり、密着結合が上皮極性形成に重要な役割を果たすと強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、ZO-1/ZO-2 double KO細胞(dKO細胞)の表現型解析を進めた結果、ZO-1/ZO-2が密着結合の形成に必須であることが確認されたと共に、ミオシンによる張力を適正なレベルに保つのに必要であることが明らかとなった。また、予想外なことに、ZO-1/ZO-2が上皮極性形成に関わることが明らかとなった。さらに、コラーゲン・ゲル中で3次元培養を行った結果、ZO-1/ZO-2が上皮管腔構造の形成に必要であることが明らかとなった。また、今年度は上皮管腔構造形成過程をライブ・イメージングによって観察するために必要な蛍光マーカー(LifeAct-GFP、E-cadherin-GFPなど)を発現するような細胞株を作成した。次年度には、これらの細胞株を用いてイメージング実験を進める予定である。 今年度、ZO-1/ZO-2が上皮極性形成に必要であるという予想外の発見があった。これまで、密着結合が上皮極性形成にどのような役割を果たすのかについては相反する結果が混在している状態であり、この発見はこの問題に解決をもたらす端緒となると期待される。そこで、この問題の重要性に鑑みて、本来予定していたTubaファミリー分子群の解析は中断し、密着結合と上皮極性形成の関わりの解析についても重点的に解析を進めることとした。本研究の主眼である上皮管腔構造形成における密着結合の役割を考える上でも、ZO-1/ZO-2が上皮極性形成の制御を介して上皮管腔構造形成に寄与する可能性が考えられる。そこで、ZO-1のどのような働きが上皮管腔構造形成に重要であるのかを明らかにするため、今後ZO-1の構造機能解析を行うことを計画している。今年度は、ZO-1の様々な変異分子の発現ベクターを構築すると共に、それらの変異分子を発現するようなdKO細胞の樹立を進めてきており、次年度にはこれらの細胞の解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、ZO-1/ZO-2が①密着結合の形成、②張力の適正化、③上皮極性形成に重要であることが明らかとなり、またZO-1/ZO-2が上皮管腔構造形成に必要であることが明らかとなった。そこで、今後はZO-1の構造機能解析を進め、密着結合形成、張力制御、上皮極性制御に関わる機能ドメインを同定した上で、上皮管腔構造形成に必要なZO-1の機能ドメインを同定し、ZO-1が上皮管腔構造形成にどのような役割を果たしているのかを明らかにする。また、これまでZO-1/ZO-2のダブルノックアウト細胞において強い表現型が観察されているが、MDCK II細胞においてはZO-3の発現も認められるため、ゲノム編集を用いてZO-1/ZO-2/ZO-3トリプルノックアウト細胞を作成し、その表現型を解析する。 また、ZO-1は密着結合に局在する様々な膜タンパク質群の局在を制御することが知られている。そこで、ゲノム編集を用いてZO-1と結合する密着結合の膜タンパク質群のノックアウト細胞を作成し、上皮バリアの形成、張力の適正化、および上皮極性形成にどの膜タンパク質が関与するのかを明らかにする。また、これらの膜タンパク質のノックアウト細胞において上皮管腔構造の形成にどのような影響があるのかを解析し、ZO-1がどのような分子を介して上皮管腔構造形成を制御しているのかを解明する。 さらに、これまでに樹立した蛍光タンパク質を発現するようなMDCK II細胞を用いて上皮管腔構造形成の形成過程のライブ・イメージングを行い、正常細胞において上皮管腔構造形成がどのように進行するのか、またdKO細胞においてどのような過程を経てmultilumenの表現型が現れるのかを解析し、ZO-1/ZO-2が上皮管腔構造形成のどの素過程に関与するのかを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画時にはTubaファミリー分子群の機能解析を予定していたため、関連分子群の抗体作成にかかる費用を予算として計上していた。しかし、研究の過程で密着結合が上皮極性形成に関わるとの予想外の知見が得られたため、Tubaファミリー分子群の機能解析は中止し、上皮極性形成におけるZO-1/ZO-2の役割を重点的に解析することとした。このため、上記の抗体作成にかかる費用は次年度の他の実験にかかる費用に回す事となった。また、購入を予定していた備品を用いた実験の一部について、既存の機器で代替できることが分かり購入を見送ったこと、また研究費の効率的な運用に努めたことにより、主に物品費に繰越が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
計画通り、細胞培養・分子生物学実験・生化学実験にかかる消耗品を購入するのに加え、解析に必要な様々な抗体、ゲノム編集実験に必要な試薬類の購入を予定している。また、研究の過程で抗体作成が必要な分子が出てきた場合には受託抗体作成を利用して抗体を作成する。また、研究成果を発表して関連研究者と議論すると共に、関連分野の研究動向を調査するために学会への参加を予定している。
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