研究課題/領域番号 |
16K18546
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
阿部 玄武 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (20550073)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 進化発生学 / 有対化 / 付属肢 / 正中ヒレ / 金魚 / ゼブラフィッシュ / 発生生物学 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、もともと正中線上に一つの器官が左右に有対化する現象の、進化発生学的メカニズムを明らかにすることを大きな目標にしている。具体的には、金魚品種およびその近縁種ゼブラフィッシュの変異体で見られる「二叉に分かれた尾ヒレ(Twin-tail)表現型」をモデルとし、どのような発生メカニズムの変更がTwin-tail表現型を表出させるのかを解析する。 平成29年度は、主にゼブラフィッシュTwin-tail表現型変異体ogonを用いて、Twin-tail表出時における発生メカニズムの変化の詳細を解析する実験を行った。ogon胚を用いたkaede蛍光タンパクによる細胞運命追跡実験の結果から、遺伝子発現解析から示唆された、「左右に広がる正中ヒレ予定領域が、正中に閉じ切らないため二叉のヒレができる」という仮説を支持する結果を得た。また、予定領域の誘導に、尾芽からのシグナルが関わり、初期胚腹側拡大によって形成される拡大した尾芽がTwin-tail表現型に必要である可能性が示唆された。現在、その誘導にシグナル分子の候補として、FGFシグナルとBMPシグナルを解析中であり、BMPシグナルがより有力である可能性が示唆されている。また、金魚を用いてogonの原因遺伝子であるsizzled遺伝子のモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)によるノックアウト実験も行い、Twin-tail表現型の表出を確認するとともに、Twin-tail金魚の原因遺伝子であるchordin遺伝子との対比により、育種において選択されやすい遺伝的要素に関する論考を現在論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画の通り、ogon胚におけるkaede蛍光タンパク質を使った細胞追跡実験や一部機能解析実験から、Twin-tail表現型における具体的な発生メカニズムの詳細を明らかにしている。また、MOによる機能解析実験からは、バイプロダクトであるが、金魚育種によってなぜchordin遺伝子が、Twin-tail表現型に選ばれたのかを論じ得る結果をえている(論文投稿中)。したがって、一定以上の成果が得られていると判断している。 ただし、研究遂行にあたり4系統のトランスジェニックゼブラフィッシュ(TG)の作成を行う必要があったが、2018年夏ごろから、所属研究室の飼育水槽(システム水槽)の水質の状態が不安定になり、TG作成効率が落ちてしまった。そのため、TGを使った機能解析実験の推進に遅れが出てしまった。どうにかFGFシグナル系のTG系統の確立は出来たが、BMPシグナル関連の系統は現在急遽進行させている。また、photo-MOによる時空間的な遺伝子抑制実験を行ったが、photo-MOの利用のための条件検討が難しく、現在そのための条件出しを急ぎ行っている最中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在確立しているFGFシグナルや確立中のBMPシグナルの機能獲得・欠損実験用のトランスジェニックゼブラフィッシュを用い、正常胚で見られる正中膜ヒレ予定領域が左右に広がっている状態から正中一本に限局する過程を、ogon変異体胚ではどのように変更しての二叉に分かれた正中膜ヒレが表出するのか、その発生メカニズムの詳細を明らかにする。また、photo-MOを用いた、時期領域特異的sizzled遺伝子、chordin遺伝子抑制をゼブラフィッシュで行う事で、Twin-tail表現型表出における時空間特異性の詳細な解析を進める予定である。そして、以上の結果をもとに、脊椎動物進化過程でみられる正中線上に一つの器官が左右に有対化する現象の進化発生学的メカニズムを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行にあたり4系統のトランスジェニックゼブラフィッシュ(TG)の作成を行う必要があったが、2018年夏ごろから、所属研究室の飼育水槽(システム水槽)の水質の状態が不安定になり、TG作成効率が落ちてしまった。そのため、TGを使った機能解析実験の推進に遅れが出てしまい、予定していた実験を次年度に回す必要があった。繰り越した助成金は、それらの実験の遂行のための消耗品費にあてる。
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