研究課題/領域番号 |
16K18551
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松花 沙織 神戸大学, 理学研究科, 助教 (70767251)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 心臓神経堤細胞 / 遺伝子制御ネットワーク |
研究実績の概要 |
神経堤細胞は胚発生初期に生じる多分化能と移動能をもち、脊椎動物にのみ見られる細胞群である。これらは神経管形成期に背側神経管から生じ、胚内を遊走し、さまざまな細胞種へと分化する。神経堤細胞はその由来する領域によりいくつかのサブグループに分けられる。その一つである心臓神経堤細胞は、耳胞から第3体節に位置する神経堤領域から生じ、大動脈管や副甲状腺、胸腺、心臓流出路、心臓の大動脈と肺動脈の隔壁などをつくる。多分化能を有する神経堤細胞の分化運命決定には移動の時期や経路が大きく影響する。しかし、心臓神経堤細胞だけは例外であり、他の神経堤細胞では補完できない特殊な分化能をもつ。 本研究では、心臓神経堤細胞の独自の細胞運命決定機構を明らかにすることを目的としている。これまで神経堤細胞の中でも心臓神経堤細胞でのみ発現している遺伝子(心臓神経堤遺伝子)としてbZIP型転写因子を同定し、その機能解析を行ってきた。その結果、このbZIP型転写因子が心臓神経堤細胞の発生に必須であることを見出だした。そこで、このbZIP型転写因子の機能阻害胚において発現が減少した神経堤マーカー遺伝子sox10をどのように発現制御しているのかを調べ、心臓神経堤細胞における遺伝子制御ネットワークを明らかにすることを目指した。 さらに、共同研究先にて確立されたニワトリ胚におけるCRISPR-Cas9システムを用いて、このbZIP型転写因子ノックアウト胚を作製し、神経堤マーカーを用いて解析したところ、前年度のモルフォリノオリゴによるノックダウン胚やドミナントネガティブ変異体における結果と一致した結果を得ることができた。 また、移動性細胞の機構に関する研究の一環として、メダカを用いた移動性筋芽細胞の発生機構の解析についても成果をあげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は心臓神経堤遺伝子として同定したbZIP型転写因子による神経堤マーカー遺伝子sox10への発現制御を明らかにする実験に取り組んだ。ニワトリではsox10の神経堤特異的エンハンサーがすでに同定されており、このエンハンサーを蛍光蛋白質発現ベクターに導入したレポーターコンストラクトが作製されている。まずsox10の神経堤特異的エンハンサーsox10E2配列 (264bp)内に、このbZIP型転写因子の結合候補配列が3つあることを見出だした。この部位にそれぞれ塩基置換を挿入した変異レポーターを作製し、ニワトリ胚内でその変異レポーター活性を検証したところ、3カ所のうち一カ所でレポーター活性の減少が観察された。さらに、心臓神経堤遺伝子の機能欠失胚やドミナントネガティブ変異体においても、sox10E2エンハンサーのレポーター活性が減少したことから、bZIP型転写因子が心臓神経堤細胞でのsox10の発現制御を行っていることを明らかにした。現在までの研究進捗状況はおおむね順調であり、これらの成果をまとめ、現在論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、心臓神経堤遺伝子であるbZIP型転写因子は心臓神経堤細胞の発生に必須であることが示された。心臓神経堤を欠失したニワトリ胚は総動脈管遺残症 (PTA)と同様の表現型を示すことが報告されており、このbZIP型転写因子の機能欠失ニワトリ胚においてもこれと似た表現型が得られることを期待している。具体的には機能解析中のbZIP型転写因子に対するCRISPR-Cas9システムによるノックアウトもしくはドミナントネガティブ変異体のニワトリ胚を心臓形成が完了するまで長期培養し、その個体の心臓を取り出し、心臓流出路部分の動脈管や切片試料において内部隔壁・弁の構造に焦点をあて表現型解析を行う。さらに切片試料に対する組織染色なども行う。 仮説通り、変異体において心臓構造の欠損や異常がみられた場合には、このbZIP型転写因子を用いた神経堤細胞リブログラム実験に取り組む。ニワトリ胚内でこのbZIP型転写因子を異所発現させた体幹部神経堤細胞を心臓神経堤細胞と置換移植し、心臓の異常な表現型がレスキューできるか否かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で焦点をあてて解析を進めている遺伝子の機能阻害実験は、当初はモルフォリノオリゴ (一本約10万円)を用いた手法によりさらに進めてゆく予定であった。しかし、プラスミドベクターを用いたドミナントネガティブ変異体やCRISPR-Cas9システムによるノックアウト変異体においても同等の有用な結果が得られ、現在はこれらの変異体を用いて主に解析を進めている。そのため、高額なモルフォリノオリゴを継続的に購入する必要がなくなり、予算の一部を次年度に繰り越すことにした。繰り越した予算については、次年度の変異体表現型解析に必要な消耗品・試薬の購入にあてる。
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