研究課題/領域番号 |
16K18556
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
平野 孝昌 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 博士研究員 (30594999)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遺伝子転写後制御 / 精子幹細胞 / P-body / microRNA / NANOS2 / DND1 |
研究実績の概要 |
精子幹細胞維持には,遺伝子mRNAの転写後制御機構が重要な役割を果たす.mRNAの分解には,細胞質顆粒P-bodyが大きく関わる.精子幹細胞では,P-bodyが分化細胞と比較し発達している特徴を持つ.P-bodyにはmicroRNA (miRNA) 経路因子が局在するが,精子幹細胞での機能は不明であった.そこで, miRNA生合成経路因子Dgcr8を,精子幹細胞特異的ノックアウトしたマウスを用いて組織学的解析を行ったところ,明確な表現型は観察されなかった.このことは,miRNA経路以外の因子の,精子幹細胞の幹細胞性維持に対する重要性を示唆する. 精子幹細胞でP-bodyに局在する因子として,NANOS2とその相互作用因子DND1が知られている.これらは,精子幹細胞維持に必須なRNA結合タンパク質である.しかし,NANOS2-DND1複合体による標的RNA認識機構に関しては不明である.NANOS2及びDND1のタンパク質機能を個々に明らかにする為,DND1のNANOS2結合ドメインの決定を行った.興味深いことに,DND1のDND1のN末端欠損体,及びRNA結合ドメインのアミノ酸変異体で,NANOS2との結合能が減少した.このことからNANOS2は, DND1-RNA複合体を認識し,そのDND1のN末端に結合することが示唆された. また,Nanos2及びDnd1は生殖細胞特異的因子であることから,その標的遺伝子解析には遺伝子変異マウスの作成が必須であった,Nanos2-Dnd1の標的遺伝子解析の簡便化を図る為,体細胞由来培養細胞NIH3T3にDnd1及びNanos2の安定発現株を樹立したところ,既知の標的遺伝子Dazl及びSohlh2の3’UTRを認識し,抑制することがわかった.また,Sohlh2 3’UTRを用いて,抑制に関わる領域の絞り込みを行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
精子幹細胞特異的Dgcr8ノックアウトマウスを用いてmiRNA生合成を阻害した生殖組織の組織学的解析を試みたが,明確な表現型がみられなかった.そこで,精子幹細胞において,miRNA経路以外にP-bodyを構成する因子NANOS2-DND1に関しても展開することとした. DND1におけるNANOS2結合ドメインの解析を行う為,DND1の各ドメイン欠損体を作成し,免疫沈降を行なった.その結果, 1). DND1のN末端 2). RNA結合必須領域の点変異体(2アミノ酸置換変異体)で,NANOS2結合能が減少した.NANOS2-DND1相互作用はRNA非依存的なことから,NANOS2はDND1-mRNA複合体を認識して結合することが考えられる.このことは,DND1が標的mRNA認識に寄与することを示唆する. 繊維芽細胞由来培養細胞NIH3T3を用いて,Dnd1及びNanos2の安定発現株を作成したところ,既知の標的遺伝子Dazl及びSohlh2 3’UTRを持つEGFPの発現が抑制されることがわかった,このことは,体細胞系培養細胞でNANOS2-DND1経路の再構成が可能であることを示唆する.これまでに,Sohlh2 3’UTRにおける責任領域の同定を試みる為,欠損体を作成したところ,約150ntまで領域を絞り込むことに成功した. 以上より,本研究では精子幹細胞におけるP-body構成因子miRNAの役割に関して迫るものであったが,明確な表現型が得られないという結果となった.しかし一方で,NANOS2-DND1の標的RNA認識機構解明への進展や,培養細胞におけるNANOS2-DND1経路再構成に成功した.このことは,NANOS2-DND1機構の全体像を伺う為のプラットフォームが整ったと考えられる事から,今後想定以上の成果が期待される.
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今後の研究の推進方策 |
miRNA経路に関して,組織学的解析では明確な表現型が得られなかったので,今後は遺伝子発現レベルの詳細な解析を行う為,マイクロアレイ等を用いた解析を行い,その役割を明らかにしていく. NANOS2-DND1の標的RNA認識に関しては,これまでの分子生物学的解析を通じて, DND1が重要であることが示唆された.今後は,DND1と直接結合するmRNAを生化学的に同定することを試みる.DND1結合RNAを網羅的に明らかにする為,精子幹細胞由来培養細胞であるGS細胞を用いて,タンパク質-RNAをクロスリンクした後,免疫沈降法とNGS解析を合わせた方法(CLIP法)でこれを明らかにする.そこで得られた配列データの中から,これまでの発現データ等と合わせて絞り込みを行う.その中から興味深い遺伝子群に関しては,クローニングしてNANOS2-DND1再構成培養細胞に導入することで,実際に抑制されることを検証する.真の標的遺伝子に関しては,DND1結合領域の変異マウスを作成し,Nanos2やDnd1変異マウスとの表現型比較をin vivoで行うことで,それらの解析と並行して,Sohlh2 3’UTRのNANOS2-DND1制御に関する責任領域を同定し,その認識配列・構造などを明らかにする,また,NANOS2-DND1の標的となる遺伝子は,精子幹細胞維持・分化に関わる可能性が極めて高い.その遺伝子機能にも迫る為,ノックアウトマウスの作成を行う. また並行して,既存の標的であるDazlやSohlh2 3’UTRの責任領域の最小化を図ることで,標的配列や構造のルールを抽出し,そちらのアプローチからも新規標的遺伝子の同定も試みる.
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