マウス生殖細胞の発生過程において、遺伝子の転写後制御が重要であることが知られている。細胞質に存在するP-bodyと呼ばれる非膜構造物は、RNAとRNA分解酵素を含むタンパク質とで相分離した顆粒体で、P-bodyに含まれるmRNAの翻訳抑制や分解を行う。生殖細胞の雄性分化期及び精子幹細胞では、生殖細胞特異的RNA結合タンパク質であるNANOS2及びDND1が複合体を形成し、結合した標的mRNAと共にP-bodyに局在することで遺伝子発現を抑制する。しかし、これらの標的mRNAの全貌は未だ不明である。本研究では、NANOS2とDND1を体細胞性培養細胞で共発現することで、その機能を再構成できることを見出した。そこで、培養細胞の再構成系を用いて、NANOS2やDND1分子の機能解析を行った。NANOS2やDND1は、それぞれ単独でmRNAの分解誘導能を有すると報告されている。しかし、既知のNANOS2標的mRNAであるSohlh2及びDazlは、体細胞でNANOS2とDND1が共発現する条件でのみ抑制された。このことは、NANOS2-DND1複合体は、それぞれ単独のときと異なるmRNAを認識することを示唆する。 また、雄性生殖細胞分化期及び精子幹細胞では、mTORC1活性が抑制される。このmTORC1抑制が、NANOS2-DND1機能再構成細胞で再現された。したがって、生殖細胞や体細胞の双方でも、NANOS2-DND1がmTORC1活性を制御すると考えられる。体細胞におけるNANOS2-DND1の新規標的mRNAを同定するため、NANOS2-HyperTRIBE法を用いて標的mRNAの探索を行ったところ、70遺伝子が候補として挙げられた。今後、精子幹細胞や雄性生殖細胞でも同様の解析を行うことで、NANOS2-DND1の新規標的遺伝子mRNAの同定が期待できる。
|