研究課題
ストリゴラクトン(SL)は植物の生長生理に極めて重要な二次代謝産物であるが、SLの生合成経路の全貌は明らかになっていない。シロイヌナズナのSL生合成経路において、AtD27, MAX3, MAX4酵素の連続的な反応により、β-カロテンからSL生合成中間体であるcarlactone(CL)が生成されるという一部だけである。申請者はこれまでに、シトクロムP450をコードしているMAX1によって、CLからcarlactonoic acid(CLA)へ、2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼをコードしているLBO(LATERAL BRANCHING OXIDOREDUCTASE)によって、methyl carlactonoate(MeCLA)からhydroxy methyl carlactonoate (1’-HO-MeCLA)へと変換されることを明らかにしている。今年度は、MAX1の機能が明らかとなっているシロイヌナズナおよびイネに加えて、トウモロコシ、トマト、樹木モデル植物であるポプラ、下等モデル植物であるシダのMAX1ホモログの機能解析について論文をまとめ、New Phytologistに掲載された。また、LBOに関しても、イネ、ソルガム、トウモロコシ、およびトマトのLBOホモログの機能解析を行い、供試した全てのLBOホモログは、MeCLAから1’-HO-MeCLAへと変換することを明らかにした。すなわち、LBOによるMeCLAから1’-HO-MeCLAへの変換は、植物種を超えて高く保存されていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
MAX1ではCL以外の、LBOではMeCLA以外の基質候補を探索するため、シロイヌナズナのmax1およびlbo変異体の内生SLを精査した。その結果、max1では、3-HO-, 4-HO-, 16-HO-CLが、lboでは、4-HO-, 16-HO-MeCLAが蓄積していることが明らかとなった。これらHO-CLの代謝物であるHO-CLAがWTからは検出されるが、max1からは検出されないため、MAX1はCLからCLAへの変換だけでなく、HO-CLからHO-CLAへの変換にも関与していることが示唆された。一方、HO-MeCLAはMeCLAと同様に、LBOが基質として消化することを確認した。代謝物についてはLC-MSで解析中である。これらMAX1およびLBOの酵素機能については、現在投稿にむけて論文をとりまとめており、進捗状況は順調である。今年度は、アグロバクテリウムを使ってNicothiana bentamianaの葉に一過的にLBOを過剰発現させ、その機能を調べることを予定していた。しかし、基質であるMeCLAの構造が不安定なせいか、大腸菌発現系で検出される代謝物だけでなく、SLと予想される代謝物はLC-MSによって検出できなかった。一方、MAX1では、酵母発現系と同様な代謝物も検出できたため、既述の投稿論文で結果を掲載した。
大腸菌発現系でLBO酵素を調製し、シロイヌナズナlbo変異体の精査によって、基質候補として同定された4-HO-および 16-HO-MeCLAをそれぞれ投与し、変換される代謝物をQ-TOF/MSやNMRで解析する。代謝物の分子量などがわかりしだい、LC-MS/MSのMRM法などにより、植物内生として存在するのか調べる。また、18-HO-MeCLAは、シロイヌナズナの内生としては、検出されないが、LBOによって既知SLであるorobancholに類似した構造であるSL-LIKEを生成することを確認している。そこで、NMRなど各種機器分析を用いて、この新奇LBO代謝物SL-LIKEの構造決定を行う。同時に、シロイヌナズナだけでなく、エンドウやイネなどSLレベルの高いSLシグナル伝達欠損変異体の内生SLを精査し、SL-LIKEが内生として存在するのかを調べる。更に、シロイヌナズナだけでなく、トマト、エンドウ、イネ、ソルガムおよびトウモロコシのLBOホモログの酵素機能についても広く検討する。なお、既に、これらLBOホモログの大腸菌発現系は構築している。また、エンドウは、フランスINRAとの共同研究によってmax1変異体を作成したため、エンドウmax1変異体の内生SLを精査する。エンドウのlbo変異体は現在同じフランスのグループが選抜しており、入手でき次第内生SLを精査する。
出張届け出の訂正により余剰の200円が繰り越しとなった。翌年度計画的に使用する。
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New Phytlogist
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10.1111/nph.15055