研究実績の概要 |
光合成電子伝達は、2つの光化学系(PSII, PSI)を用い酸素発生とNADPH, ATP生成を伴うリニア電子伝達と、PSIのみを用いATPのみを生成するサイクリック電子伝達の2つのモードがある。PSIIが強光による失活(光阻害)に陥った際に、サイクリック電子伝達がATP合成を促進することで、光阻害からの回復に何らかの役割を果たしていることが予測される。そのため本研究の目的は、光阻害の緩和に重要なPSIIの修復に果たすサイクリック電子伝達の役割を解明することである。平成28年度は、サイクリック電子伝達活性が増加する条件の特定、その条件下でのATP合成能およびPSII修復能の評価を目指し、サイクリック電子伝達関連遺伝子の欠損変異体の作製に取り組んだ。また、シアノバクテリア(Synechocystis sp. PCC. 6803)におけるサイクリック電子伝達測定方法を確立した。平成29年度は、サイクリック電子伝達因子であるPGR5, NdhSの欠損株および二重欠損株(Δpgr5, ΔndhS, Δpgr5ΔndhS)を単離し、サイクリック活性増加条件の特定、PSIおよびPSIIの光阻害とATP合成能において解析を行った。細胞に比較的強い光(200 μmol photons m-2 s-1以上)を照射することにより、サイクリック電子伝達活性が一過的に増加すること(光活性化)を見出した。さらにこの光活性化は、PGR5依存的であることを明らかにした。Δpgr5, ΔndhS, Δpgr5ΔndhSにおけるPSIIおよびPSII光阻害の程度は野生型と有意な差はなかった。しかしながら、変動光下での生育が野生型より遅れたことから、真核生物での報告と類似してpgr5は、サイクリック電子伝達の活性調整に重要であることが示唆された。
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