研究課題/領域番号 |
16K18564
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
宮原 平 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90720889)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | デルフィニウム / アントシアニン / アントシアニン修飾酵素 |
研究実績の概要 |
デルフィニウムの主要アントシアニン構造にはデルフィニジンの7位がポリアシル化された構造のビオルデルフィンとさらに複雑な構造のシアノデルフィンと呼ばれる分子種がある。デルフィニウムの青色はこの複雑なアントシアニン構造が液胞内において積層構造を形成することで深みのある濃い花色を呈していることが知られている。本研究ではビオルデルフィンからシアノデルフィンにいたる修飾酵素遺伝子の同定とその液胞内での花色多様性を産み出すメカニズムを解明することを目的に研究を行っている。当該年度はシアノデルフィンの前駆体と考えられるアントシアニン分子種を主要アントシアニン分子種としている品種を同定し、そのアントシアニンの精製方法を確立した。また、これまで液胞内での配糖化およびアシル化はアシルグルコースを糖供与体としていることを示していたが、グルコースが2分子結合した有機酸においても反応が進むことを新たに見出した。 また、他の植物と同様にデルフィニウムではアントシアニンと共存することで色調を変化させる効果をもつ色調変調物質の存在が示唆されていた。特に色調減退物質の報告例はこれまで他の植物での1例しかなく、デルフィニウムにおいては未同定である。そこでこの色調減退物質の同定に向けた単離精製を行った。品種間での蓄積物の比較により色調減退物質の候補化合物を 7 種類単離し、そのうちの1 種において色調減退効果があることを確認し、その物質の単離精製方法を確立した。 アントシアニン修飾酵素遺伝子および色調減退物質の同定に向けて、今後は単離した分子種の構造を同定することで関連する遺伝子の同定および液胞内メカニズムの解明に臨む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビオルデルフィンからシアノデルフィンにいたる修飾酵素遺伝子の単離およびで同定に向けて、酵素反応の確認で必要となる糖受容体の単離精製を進めた。シアノデルフィンはアントシアニン 7 位のグルコースに 1-3 結合でグルコースが 2 つ連結した部位をもつ構造をしている。これまでの解析から、シアノデルフィンの前駆体と考えられるビオルデルフィンに 2 分子のグルコースが結合したアントシアニン構造を主要色素としている品種を確定した。デルフィニウムは開花時期や生育時の天候により花の主要アントシアニンの構造が変わることがあり、当初当該分子種の単離を予定していた品種においてサンプリング時期が変わるとアントシアニンの組成が変わることがわかった。しかし、新たに蓄積物を解析した品種においてビオルデルフィンに 2分子のグルコースが結合したアントシアニンを主要蓄積物としている花を 100 g 以上サンプリングすることができたので、そのアントシアニンを大量精製し、構造の同定を行う。今後はこのシアノデルフィン前駆体を単離精製し、酵素反応の糖受容体として利用することでシアノデルフィンにいたる修飾経路の解明を目指す。 また、白色デルフィニウム品種において、開花時に白色の花が経時変化により青味を呈する現象の解明に向け研究に着手した。植物色素ではコピグメント効果と呼ばれるアントシアニンと他の低分子化合物が生体内で積層構造を形成することで花色に変化を与える現象が知られており、近年にスイートピーにおいて花色を減退させる効果をもつコピグメント物質が報告された。このため、デルフィニウムにも色調減退物質が存在することが示唆されたため、候補と考えられる 7 つの低分子化合物を単離精製した。アントシアニンと単離物との混合液の吸光度を測定した結果、特定の単離した画分で色調が減退することが示された。今後はその化合物の構造解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きビオルデルフィンからシアノデルフィンにいたる経路の修飾酵素遺伝子の単離・同定を行う。目的のアントシアニン分子種を主要蓄積物とするデルフィニウム品種の花は既にサンプリング済みであり、アントシアニンの単離・精製方法は前年度に確立しているため、構造の帰属には時間はかからない見込みである。次に単離したアントシアニン分子種を糖受容体、アシルグルコースを糖供与体として、シアノデルフィンを主要蓄積物とする品種の花からの粗酵素液と酵素反応をさせることでシアノデルフィンまでの酵素合成が可能であるのか検討する。また、これまでの結果より、デルフィニジン7-グルコシド以降の修飾順序は、ビオルデルフィンまで合成されてからシアノデルフィンへの糖鎖による分岐構造に反応が進むと考えられていた。しかし、糖供与体として2分子のグルコースが結合したアシル糖を基質とした場合ではアシル基と糖の転移が同時に起こっていることが示唆された。このため、デルフィニジン7位修飾経路がこれまでの予想とは異なっている可能性が考えられたため、デルフィニジン7-グルコシドを糖受容体として修飾反応を確認する。粗酵素活性が確認された反応から順次、触媒している酵素遺伝子の単離を進める。シアノデルフィンを主要アントシアニンとして蓄積している品種の次世代シーケンスによる RNA-seq データを取得しているのでそこから候補遺伝子の絞り込みを行い、大腸菌または酵母を使った組換え酵素活性により機能同定を行う。 色調減退物質については、実際に色調減退が確認された低分子化合物が花での蓄積量があまり多くないためまず、効率の良い単離精製方法を確立したのち、その構造の同定とともに、他の低分子化合物と混合することでさらなる色調減退効果が示されるのか検討を行う。
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