• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2017 年度 実施状況報告書

浮イネ節間伸長による洪水耐性の分子機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 16K18565
研究機関名古屋大学

研究代表者

永井 啓祐  名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 特任助教 (30648473)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード洪水耐性 / 節間伸長 / 酸素動態 / 撥水性
研究実績の概要

浮イネは洪水時に水位の上昇に応じて節間を伸長させることで葉を水面上に出し、光合成の維持と酸素の獲得をしていると考えられている。しかし、部分冠水下の浮イネの酸素動態は既に報告されているが、大気から酸素などの気体を獲得できない完全冠水下における浮イネの酸素動態と節間伸長性については明らかにされていない。そこで、完全冠水時における浮イネ節間内の酸素動態を、針状光学酸素計を節間内に挿入することで調べた。その結果、通常生育条件下の浮イネ節間内の酸素分圧は常時、大気中の酸素分圧と平衡状態であったのに対して、完全冠水下では日中に高酸素状態、夜間に低酸素状態を示した。しかし、3日間の実験期間を通して無酸素状態になることはなかった。このことは完全冠水下においても酸素を獲得していることを示唆した。そこで、完全冠水下における節間内の酸素動態と葉の撥水性の関係を調べたところ、葉の撥水性を除去すると節間内の酸素量が昼夜を通して顕著に減少し、特に夜間は無酸素状態になった。また、通常の浮イネは完全冠水下で節間伸長するのに対して、葉の撥水性を除去した浮イネでは節間伸長が有意に抑制された。これらのことから、葉の撥水性と節間内の酸素動態は密接に関連しており、完全冠水下において浮イネは葉を通した節間内の酸素量を維持することで節間伸長を可能にしていると考えられた。
また、イネの葉において撥水性が喪失した変異体の解析を行った結果、wax合成に関与する新規因子を同定した。冠水した野生型の葉の表面には気体層が形成されるが、変異体では気体層が早期に消失した。さらに葉の撥水性と水中光合成能の関係を調べたところ、野生型では水中における光合成が維持されたのに対して、変異体では有意に低下した。これらのことから、葉の表層waxによる撥水性はイネの水中での気体交換を可能にすることで光合成を維持していることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究項目「冠水時における浮イネ節間の機能の解明 」に関して、1) 浮イネ節間内の酸素動態の解明と、それに関連した2) 葉の撥水性と耐水性の関係の解明において一定の研究成果が得られた。前者に関しては現在、論文執筆中であるが、後者に関しては論文出版された。
上記以外に「QTL原因遺伝子の単離・機能解析」のうち、第1染色体上のQTLに関しては原因遺伝子の同定、および機能解析を終えている。これについては、研究計画通りに平成29年度に論文投稿まで至った。現在、revise中であるため平成30年度中の出版を目指している。研究項目の「節間に存在する介在分裂組織における細胞分裂の制御機構の解明」に関しては計画通り、平成28年度に得られた結果をもとに平成29年度に再現性の確認を行った。これに関しては論文執筆中である。

今後の研究の推進方策

現在、revise中の「第 1 染色体に座乗する QTL 原因遺伝子のクローニング」に関して平成30年度の出版を目指す。「複数の QTL 領域を保持した系統(ピラミディング系統)の形質評価」に関しては平成28年度および平成29年度に得られた結果をもとに論文執筆を行う。平成29年度に既に論文執筆中も課題「冠水時における浮イネ節間の機能の解明」および「節間に存在する介在分裂組織における細胞分裂の制御機構の解明」については本年度中の出版を目指す。
研究項目「QTL原因遺伝子の単離・機能解析」のうち、第3染色体上のQTLについて平成29年度までに原因遺伝子の同定、および機能解析の一部が終了している。また、これまでに第3染色体原因遺伝子の生理学的および形態学的な機能を過剰発現体および準同質遺伝子系統を用いて明らかにしており、これらの知見をもとに平成30年度はRNA-seqによる遺伝子発現に及ぼす影響やタンパク質間相互作用因子の探索を行い分子レベルでの詳細な機能解析を行う。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Copenhagen University(Denmark)

    • 国名
      デンマーク
    • 外国機関名
      Copenhagen University
  • [国際共同研究] West Australia University(Australia)

    • 国名
      オーストラリア
    • 外国機関名
      West Australia University
  • [雑誌論文] Rice leaf hydrophobicity and gas films are conferred by a wax synthesis gene (LGF1) and contribute to flood tolerance2018

    • 著者名/発表者名
      Kurokawa Yusuke、Nagai Keisuke、Huan Phung Danh、Shimazaki Kousuke、Qu Huangqi、Mori Yoshinao、Toda Yosuke、Kuroha Takeshi、Hayashi Nagao、Aiga Saori、Itoh Jun-ichi、Yoshimura Atsushi、Sasaki-Sekimoto Yuko、Ohta Hiroyuki、Shimojima Mie、Malik Al Imran、Pedersen Ole、Colmer Timothy David、Ashikari Motoyuki
    • 雑誌名

      New Phytologist

      巻: 218 ページ: 1558~1569

    • DOI

      10.1111/nph.15070

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Time-Course Transcriptomics Analysis Reveals Key Responses of Submerged Deepwater Rice to Flooding2018

    • 著者名/発表者名
      Minami Anzu、Yano Kenji、Gamuyao Rico、Nagai Keisuke et. al.
    • 雑誌名

      Plant Physiology

      巻: 176 ページ: 3081~3102

    • DOI

      doi: 10.1104/pp.17.00858

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Breeding Applications and Molecular Basis of Semi-dwarfism in Rice2018

    • 著者名/発表者名
      Nagai Keisuke、Hirano Ko、Angeles-Shim Rosalyn B.、Ashikari Motoyuki
    • 雑誌名

      Rice Genomics, Genetics and Breeding

      巻: - ページ: 155~176

    • DOI

      https://doi.org/10.1007/978-981-10-7461-5_9

    • 査読あり
  • [雑誌論文] eQTLs Regulating Transcript Variations Associated with Rapid Internode Elongation in Deepwater Rice2017

    • 著者名/発表者名
      Kuroha Takeshi、Nagai Keisuke、Kurokawa Yusuke、Nagamura Yoshiaki、Kusano Miyako、Yasui Hideshi、Ashikari Motoyuki、Fukushima Atsushi
    • 雑誌名

      Frontiers in Plant Science

      巻: 8 ページ: -

    • DOI

      doi: 10.3389/fpls.2017.01753

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] イネ節の効率的な気体透過性による耐水性機構の解明2018

    • 著者名/発表者名
      永井啓祐
    • 学会等名
      第34回資源植物科学シンポジウム、第10回植物ストレス科学研究シンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] Oxygen transport through rice node tissue2017

    • 著者名/発表者名
      Keisuke Nagai
    • 学会等名
      IGER symposium on Long0distance signaling in plant
  • [学会発表] イネが水田で生きるためには~コンペイ糖状細胞の発見とガス交換の仕組み~2017

    • 著者名/発表者名
      永井啓祐
    • 学会等名
      2017年遺伝学研究所研究会「イネ分子遺伝学の方向性」
  • [学会発表] イネがイネであるために~茎の形態から~2017

    • 著者名/発表者名
      永井啓祐
    • 学会等名
      第3回農学中手の会
  • [学会発表] 植物が水辺で生きる2017

    • 著者名/発表者名
      永井啓祐
    • 学会等名
      日本育種学会 第132回講演会
    • 招待講演
  • [備考] Flood, drought and disease tolerant

    • URL

      http://www1.bio.ku.dk/presserum/pressemeddelelser/flood-drought-and-disease-tolerant--one-gene-to-rule-them-all/

URL: 

公開日: 2018-12-17  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi