動物が中枢神経系による一元的な情報処理によって個体統御をおこなうのに対して、植物は各細胞が局所的な応答するとともに、維管束を介した長距離シグナル伝達機構を発達させ、局所的応答と全身的な応答を統合して個体を制御している。本研究では、植物の土壌中無機栄養欠乏に応答した全身的な無機栄養取り込み制御に関わる分子実体を明らかにすることで、植物特有の長距離シグナル伝達機構の解明を目的として研究を進めている。とくに無機栄養のなかでも重要な元素の1つであるリンの欠乏応答に着目して解析している。 シロイヌナズナのSplit-root systemを用いたリン欠乏培養によって、植物の根の一部がリン欠乏を感知すると、全身的 な情報伝達制御を介して、局所的なリン欠乏を相補するような遺伝子発現変動により、地上部の成長を一定に保つようなシステムが働くことを明らかにした。つまり、Split-rootリン欠乏培養により、一部の根がリン欠乏にさらされても、地上部の生育は、十分にリンが存在する培地下で生育させた時と変わらなかった。同時に、Split-root リン欠乏培養時の根におけるトランスクリプトーム解析から、網羅的な遺伝子発現変動を明らかにすることができ、長距離シグナルに関わることが期待される幾つかの因子を抽出した。現在、これら候補因子の変異体をもちいたリン欠乏応答マーカー遺伝子の発現変動についてqPCR解析中である。 また、シロイヌナズナを用いた根圧を利用した胚軸切断による道菅液の採集の条件検討をおこなった。しかしながら、シロイヌナズナの道菅液をもちいたLC-MS解析では網羅的なタンパク質の同定は困難であったため、トマト道菅液を用いた解析を進めた。リン欠乏時におけるトマト道管液を用いたLC-MS解析から約500種のタンパク質を同定した。この中から、リン欠乏時に発現が上昇する分泌型のタンパク質を中心に解析を進めている。
|