研究課題
我々は、これまでに植物プロテインチロシンキナーゼ CRK2によるリン酸化が植物ホルモン・ジベレリン(GA)の受容体GID1の安定化に関与すること、さらに、GID1と相互作用するRING型E3リガーゼGARUがCRK2によってリン酸化されることを明らかにしている。本研究課題では、CRK2-GARU-GID1間のチロシンリン酸化とユビキチン化という2つの翻訳後修飾の機能を解析することにより、新たなGAシグナル伝達制御機構の発見と、チロシンリン酸化の生物学的な意義を明らかにすることを目的としている。本年度は、GARUがGID1のユビキチン化依存的な分解誘導に関与するかどうかを解析した。シロイヌナズナにはGID1遺伝子が3種存在するが、in vitro ユビキチン化解析によって、 GARUは3種すべてのGID1タンパク質をユビキチン化することを明らかにした。さらに、GID1タンパク質上に存在するリジン残基をアルギニン残基に置換した変異体解析によって、GARU依存的なユビキチン化は複数箇所のリジン残基によって起こることを明らかにした。ついで、シロイヌナズナ葉肉プロトプラストを用いた一過的発現解析の結果、in vitro ユビキチン化解析と同様に、細胞内においてGARU依存的なGID1ユビキチン化が観察され、さらに、ユビキチン化依存的なプロテアソーム系による分解誘導を受けることを明らかにした。garu遺伝子欠損植物体においては、GID1タンパク質の安定化、GAシグナル抑制因子DELLAの分解促進、GA依存的な胚軸伸長の促進などが観察された。以上の解析から、GARUは植物内においてGID1のユビキチン化依存的な分解を誘導し、GAシグナルを負に制御する機能があることが示唆される。現在、GARU遺伝子を高発現する組換え体を複数ライン確立しており、今後それらの解析を進めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
GARUがGID1のリジン残基を特異的にユビキチン化することを明らかにできたが、ユビキチン化部位の同定には至らなかった。多くの先行研究から、稀にユビキチンE3リガーゼは複数箇所のリジン残基をユビキチン化することが知られており、ユビキチン化部位を特定することが困難なケースが知られている。したがって、ユビキチン化部位の特定よりも、本研究の重要課題である、GARU依存的なGID1ユビキチン化の生理学的機能について重点的に解析した。その結果、GARUが細胞内においてGID1のユビキチン化を触媒すること、さらに、ユビキチン化によってプロテアソーム系による分解を誘導することを明らかにした。さらに、GARU遺伝子の欠損植物体を用いた解析によって、GARUがGID1分解を介してGAシグナルを負に制御していることを強く示唆する結果が得られた。以上の結果から、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
in vitro 解析によって、CRK2依存的なGARUのチロシンリン酸化は、GARU-GID1間の相互作用を抑制することを既に明らかにしている。そこで、細胞内におけるGARUのチロシンリン酸化を一過的発現解析によって明らかにしたのち、リン酸化GARUのユビキチン化活性を in vitro および一過的発現解析によって評価する。さらに、CRK2遺伝子高発現体または欠損体を用いて、GID1タンパク質の安定化、DELLA分解速度、GA応答能を解析する。また、GARUの野生型またはリン酸化部位変異体とCRK2遺伝子を高発現する組換え体を作出し、GID1安定化、DELLA分解速度などについて解析し、GAシグナルにおけるチロシンリン酸化とユビキチン化の機能を明らかにする。
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