研究課題/領域番号 |
16K18572
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
朝比奈 雅志 帝京大学, 理工学部, 講師 (00534067)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 組織癒合 / 植物ホルモン / 遺伝子発現解析 / レーザーマイクロダイセクション / シロイヌナズナ / 時空間的変化 / 維管束 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、傷害を受けた植物の組織再生メカニズムを明らかにすることを目的とする。植物の茎を部分的に切断すると、切断された組織は、それまでの細胞機能を転換し、一過的にメリステマティックな状態へと移行し、細胞分裂を開始して失われた組織を分化させ、元の組織同士を癒合させることで個体機能の回復を図る。本研究では、シロイヌナズナの切断傷害を受けた花茎が、失った表皮や維管束組織を再生/再分化させるプロセスに注目し、傷害を受けた組織から維管束や表皮組織などが再生するリプログラミングの過程について、分子遺伝学的手法とともに、レーザーマイクロダイセクション(LMD)などの新たな技術と、微細構造観察・機器分析法を融合させた研究手法を取り入れて行うものである。 今年度は、シロイヌナズナの切断傷害を受けた花茎の癒合過程におけるより詳細な時空間的な変化を明らかにするために、LMD法を用いた組織特異的遺伝子発現解析を行った。切断処理を行ったシロイヌナズナ花茎の切片から、LMDを用いて切断部上側または下側、非切断の各領域に区別し、さらに「表皮・皮層」、「維管束」、「髄」の組織ごとに分けて回収し、解析に用いた。その結果、植物ホルモンの情報伝達や細胞分裂に関する遺伝子の時空間的発現変化を明らかとした。 また、LMD法によって回収した極微量組織片からの内生植物ホルモン分析法を確立し、植物ホルモンの詳細な局在変化の解析を可能とした。さらに、ANAC転写因子が二次的に形成される導管組織の分化に深く関わっていること、胚軸間接ぎ木の接着過程における維管束組織の再生・再分化にも関わっていることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
切断されたシロイヌナズナ花茎が癒合するまでの一週間の過程における遺伝子発現について、LMD法を用いた詳細な組織別の時空間的発現変化を明らかとした。RNA-Seq法を用いたトランスクリプトーム解析に必要な遺伝子サンプルの回収には至らなかったが、次年度中には回収が終了し、発現解析に着手できる計画である。 また、LMD法によって回収した極微量組織片からの内生植物ホルモン分析法を確立することができた。さらに、組織癒合過程におけるANAC転写因子の生理機能の一端を明らかにできた。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
LMD法を用いた内生植物ホルモン分析とRNA-Seq法などを用いたトランスクリプトーム解析を進めることで、組織癒合に関与する植物ホルモンのシグナル伝達系を解明するための基盤とする。ANAC転写因子の下流候補遺伝子に関して、Protein-DNA Binding Assayやクロマチン免疫沈降シークエンス法、BiFC法を用いた解析などを行い、制御機構を解析する。維管束組織の再生・再分化機構に関しては、前年度までに行った遺伝子発現解析を足掛かりにして、組織・部位特異的な遺伝子発現を進め、遺伝子発現ネットワークを明らかにする。また、VND遺伝子群やTDIF等の機能と制御機構を、突然変異体や形質転換体を用いて進める。 さらに、透過型電子顕微鏡を用いた組織化学的解析や免疫顕微鏡観察を進め、組織癒合部の微細構造の変化を観察することにより、プラズモデスマータなど細胞間連絡機能の再生や、癒合部の構造変化を示していく。組織癒合過程に発現が変化する細胞壁合成・代謝遺伝子については、in situハイブリダイゼイーション、BiFC法、レポーター遺伝子等を用いて、遺伝子発現の組織特異性やシグナル分子の移動について精査し、器官再生との関連性の検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおむね計画通りの使用であったが、キャンペーン価格などによる消耗品経費の圧縮と、当初予定していた植物生理学会出張旅費を大学研究費から支出したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はRNA-seq解析等を行う予定であり、分子生物学関連試薬の支出増が見込まれることから、これらの消耗品経費に充填する予定である。
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