研究課題/領域番号 |
16K18574
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
前嶋 翔 埼玉大学, 理工学研究科, 研究支援者 (10773286)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経科学 / 行動神経内分泌 / 性行動 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、先行研究により雄ラットの性行動制御における内側視索前核中心部(MPNc)の交尾経験後の機能変化に関わると推測された2つの分泌性ペプチド、Vgf nerve growth factor inducible(VGF)とコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)のMPNcにおける機能について組織学的解析により調べた。VGF産生細胞およびCRH産生細胞はともにMPNcに分布しており、特にCRH細胞の軸索がMPNcに投射していたことから局所回路を形成していることが明らかになった。またVGF産生細胞にCRH受容体が発現していたことから、CRHとVGFの機能的連関が示唆された。一方で、雄性行動発現時に活性化するニューロンとVGFニューロンが異なっていたことから、CRH細胞、VGF細胞の他に異なる細胞集団が存在し、相互に作用することで雄性行動を制御していると考えられた。また、VGF遺伝子の発現を抑制してその表現型を解析することで雄性行動制御におけるVGFペプチドの生理的役割をin vivo実験系により解析した。設計した配列をもとにVGF siRNAを発現するためのshRNA発現アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作製し、雄ラットのMPNcに投与して雄性行動の変化を観察した。その結果、AAVベクターを投与した雄ラットでは、性経験後の雌ラットに対する選好性および性的モチベーションが減衰し、性経験後の性行動の亢進が見られなくなった。このことは、雄ラットが初めて交尾を経験する際にVGFが作用することでMPNcの機能が変化し、その後の雄性行動が促進されることが示唆された。以上により、MPNcに発現するVGFとCRHが協調的に機能することで雄性行動の制御、特に交尾経験後の性行動亢進に関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は組織学的解析を軸に研究を行い、CRHおよびVGF産生細胞のMPNcにおける分布を明らかにし、両ペプチドの連関の一部も示した。またin situ hybridization法と免疫組織化学的手法を組み合わせることで、神経活性マーカーであるc-Fosと分泌性ペプチドであるVGFの局在を比較することができたが、CRHとc-Fosの分布比較には至っておらず、神経投射についてもその一部を明らかにしたのみである。一方で、VGFのノックダウンに用いるAAVベクターの作製が当初の予定よりも早く完了したため、平成29年度に予定していたin vivo解析を、本年度に予定していたMPNcと他の神経核との連絡の組織解析に先だって行い、上記の結果を得た。本研究成果については国内外の学会で発表し、現在論文投稿の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きVGFとCRHの組織学的解析を行い、両ペプチド細胞の分布や投射、他の神経核・脳領域との連関を明らかにしていく。加えて、所属研究室で維持しているc-Fos-RFP遺伝子改変ラットを用いて、雄性行動時に活性化する神経回路と両ペプチドの関連性を解析する。またVGF shRNA-AAVベクターを、性経験を既に獲得している雄ラットに投与してその後の性行動を観察することで、VGFが初めての交尾経験の際に作用することでMPNcのき機能変化に働くペプチドであることを証明する。CRHについても、受容体アンタゴニスト等を用いることで、その機能について明らかにすることができると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を遂行する上での当初の計画と実際の実施順が変更した部分があったため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画遂行のために必要な試薬などの消耗品の購入に使用する。
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