研究実績の概要 |
平成29年度は、前年の研究に引き続きVGF siRNAを発現するshRNA発現アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、ラットの雄性行動に及ぼす内側視索前核中心部(MPNc)におけるVgf nerve growth factor inducible(VGF)のノックダウンの影響を調べた。対照群の雄ラットの発情雌ラットに対する選好性(性的モチベーションの指標)や性行動が、交尾を経験することで増強あるいは亢進されたのに対し、交尾経験前にVGFをノックダウンされた雄ラットでは、発情雌ラットに対する選好性が減衰し、性経験後の性行動の亢進も見られなくなった。一方、既に複数回の交尾経験を有する雄ラットにおいてVGFをノックダウンしても、その後の選好性や性行動が低下することはなかった。また、VGF由来の神経ペプチドであるNeuroendocrine regulatory peptide-1および2(NERP-1,2)をVGFをノックダウンされた個体の側脳室へ投与して同様の観察を行ったところ、VGFノックダウンによって消失した交尾経験後の選好性や性行動亢進がNERP-1,2の投与によって若干回復する傾向が見られた。以上の結果から、雄ラットの性的モチベーションや性行動は、交尾を経たMPNcの機能変化によって増強されるが、その機構にMPNcに発現するVGFとその由来ペプチドが関与している可能性が示された。一方、VGFと同様にMPNcの機能変化に関与すると推察されていたコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)は、射精後のMPNcにおける発現の変化に、性経験の有無で違いがないことが定量的リアルタイムPCR解析により明らかになり、CRHは性行動に伴って遺伝子発現が変化するものの、経験後の行動促進には関与しないことが考えられた。
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