研究課題/領域番号 |
16K18576
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
岩元 明敏 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (60434388)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 物理的圧力 / 数性 / シロイヌナズナ / マツモ |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究の目標としてあげた花芽(花原基)に対して人工的に物理的圧力を与えることによる数性変化の誘導と、雄花における数性変化が確認されているマツモ(Ceratophyllum demersum)における花器官形成に関連する遺伝子の発現の解明について以下のような研究成果が得られた。 まず、前者についてはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の花原基に対して物理的圧力が花の形態形成、特に数性変化の要因となり得るかを検証する実験系の開発に取り組んだ。具体的には、花期に相転換して間もないシロイヌナズナの茎頂から葉を取り除いて花原基群を露出させ、そのうちまだ花器官が形成されていない若い花原基を選択して、背軸側にシリコンデバイスを使って人工的に圧力を与えるシステムを作成した。 このシリコンデバイスは電子顕微鏡のレプリカ法での鋳型作成に用いるものと同素材でできており、レプリカ法を応用して圧力を与える部分がちょうど若い花原基の形状にフィットするように作成した。このシリコンデバイスをガラス製の超微針の先につけ、マイクロマニピュレーターを用いることによって若い花原基に接触させて背軸側の器官に局所的に物理的圧力を与えることが可能となる。予備的ではあるが、このシステムを用いた接触実験によってシロイヌナズナの花の形態を変化させることができることも確認できた。 後者のマツモにおける花器官形成関連の遺伝子発現解析については、解析の準備を進めた。マツモはモデル植物ではないことから、安定して解析の材料となる花芽を得ることが難しかった。そこで、これまでに室内でのマツモの育成システムを確立し、実験材料がある程度安定的に供給されるようになった。現在、花器官が作られる際のmRNAの抽出およびそれを用いたマツモにおける花器官形成に関連する遺伝子の単離を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
シロイヌナズナ茎頂分裂組織への物理的圧力を加えて形態変化を明らかにする研究については、計画通りに進んでいる。1年目に計画していた物理的圧力を花芽に与える実験系の開発がほぼ完了しており、2年目に計画されている実際に様々な物理的圧力を与えた際に花の形態、数性がどう変化していくかの解析、さらにその時のシロイヌナズナDRNL遺伝子の発現解析を行うための体制が整った。 もう1つの計画目標であるマツモにおけるDRNLオルソログ遺伝子の単離については、材料となるマツモの花芽を安定的に得ることが難しかったこと、近縁植物のゲノム情報を調べた結果マツモにはDRNLのオルソログ遺伝子はおそらく存在しないことが分かった。これに対して、これまでに室内でのマツモの花を安定期に育成するシステムの開発を行ったほか、現在DRNLに代わる花器官形成のマーカーとなる遺伝子の探索を進めている。 これらを勘案し、特に2つめにあげたDRNLオルソログ遺伝子の単離については大幅な計画修正が必要となったことから、全体としての進捗はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナ茎頂分裂組織への物理的圧力を加える実験については、ほぼ予定通りに研究が進んでいることから、引き続き計画通りに研究を進めていきたい。すなわち、確立した手法を用いて、シロイヌナズナの花芽分裂組織の様々な位置に物理的圧力を与え、花の形態形成にどのような影響を与えるかを明らかにする。特に、マツモの形態学的研究の結果から、シロイヌナズナについても花芽分裂組織の様々な位置に物理的圧力を加えることで様々な数性の花が得られるかを検証する。また、各条件で物理的圧力を加えた花芽分裂組織におけるDRNL遺伝子のmRNAのin situハイブリダイゼーションを行い、遺伝子発現と物理的圧力との関係を明らかにすることも目指す。 一方、マツモにおけるDRNLオルソログ遺伝子の単離と発現解析については、まずはDRNLに代わる花器官関連の遺伝子で、マツモにおけるオルソログが存在する遺伝子の探索と単離を行う。そして、その遺伝子の発現解析を進めて、マツモにおける物理的圧力が花の形態形成、特に数性に影響を及ぼしているのかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マツモのDRNL遺伝子の単離を行う予定だったが、進捗状況の理由にも記載の通り、計画の変更が必要となったため、関連する物品費と人件費が当初予定を下回ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度はDRNLに代わる遺伝子を探索し、当該年度にできなかった花器官形成の関連遺伝子の単離を行う予定である。次年度使用額については、主にこの遺伝子単離のための物品費と謝金(人件費)にあてる計画である。
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