研究課題/領域番号 |
16K18577
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
妻鹿 良亮 鳥取大学, 乾燥地研究センター, プロジェクト研究員 (80738526)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物ホルモン / アブシジン酸 (ABA) / 不稔 / ABA代謝酵素遺伝子 / 植物生理学 / 分子生物学 / 形態形成 |
研究実績の概要 |
シロイヌナズナのアブシジン酸 (ABA) 代謝酵素遺伝子の四重変異株が極端な不稔形質を示すことに注目し、ABAが関与する不稔のメカニズムを分子生物学的および生理学的アプローチにより明らかにする。ABAは植物が環境ストレス耐性を発現するために必須のホルモンであるが、生殖生長期においてはABAの蓄積が逆に不稔を誘発する。ABAが正常な生殖生長を妨げる原因となっている可能性があるにもかかわらず、ABAと不稔の関連性を示した研究例は少なく、本研究ではABAが不稔を誘発するメカニズムを明らかにする。 先行実験により四重変異株はいくつかの要因が複合的に重なって不稔が成立している可能性が示唆された。四重変異株は野生株よりも(1)葯を支える花糸が短く、葯が柱頭に届きにくい構造をしている、(2)開花が起こっても葯の表面の花粉が少ない、葯の裂開が起こりにくいのか、それとも花粉の量自体が少ないのか、(1)(2)2つの形態的要因が観察された。 そこで、四重変異株においてABA代謝酵素遺伝子の一つであるcyp707a4の過剰発現株を作製し、さやの生長および種子収量を調べたところ、不稔を解消することに成功した。また、花の断面を観察したところ、花糸の長さが野生株並みに回復していることが明らかになった。 さらに、四重変異株のめしべに野生株の花粉を掛けたもの、野生株のめしべに四重変異株の花粉を掛けたものの種付きを観察することによって四重変異株のめしべ、花粉のどちらが不稔の原因になっているのかを評価した。その結果、野生株のめしべと野生株の花粉の交配結果と比較すると、どちらの条件でも種付きが悪くなっていることが示された。以上の結果から、四重変異株の不稔は花粉およびめしべにも何かしらの原因があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
cyp707a四重変異株は葯を支える花糸の長さが野生型よりも明らかに短い。そこで、四重変異株においてcyp707a4の過剰発現株を作製し、さやの生長および種子収量を調べたところ、不稔が解消されていた。この結果により、これまで機能同定がなされていなかったcyp707a4がABAの代謝に寄与することが示されたことに加えて、花糸の長さが野生株並みに回復し、不稔が解消したと言える。以上の結果から、花糸の長さが不稔の一因として確実に寄与していることが示唆された。 また、四重変異株のめしべに野生株の花粉を、野生株のめしべに四重変異株の花粉を掛けた交配試験から、四重変異株の花粉、めしべの双方に不稔になる原因があることが示唆されたことから、当初の仮説通り四重変異株の不稔は花糸、葯、花粉、めしべの各要因が複合的に組合さって成立していることが確認できた。 さらに、野生株と四重変異株のトランスクリプトーム解析により候補となる遺伝子がいくつか見つかったが、生理学実験の結果から、当初予定していたおしべ、めしべだけでなく、より詳細に花糸、花粉、葯、めしべで解析を行う必要性が生じたため、不稔の原因遺伝子が特定できたとは言い難い。 ゆえに、当初の予定よりも研究の進行はやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果から、四重変異株が不稔になる原因として、花糸の長さ、花粉、めしべ、葯の裂開の4つの可能性が示唆された。さらに、これらが複合的に重なって不稔が誘発されていると考えられる。cyp707a4の過剰発現により不稔が解消されることから、各組織でのABAの蓄積が正常な器官の形成を妨げている可能性が高い。そこで、さらに花糸、花粉、めしべ、葯に細分化してトランスクリプトーム解析を行い、各器官ごとに発現パターンに違いのある遺伝子を同定する。その後、同定した個々の遺伝子を四重変異株で過剰発現することにより、花糸、花粉、めしべ、葯の各器官がどのように変化したかを観察し、不稔の原因となっている遺伝子を決定する。遺伝子個々では不稔が回復しない場合、掛け合わせにより過剰発現遺伝子を蓄積していき、不稔の回復具合を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究の初期段階であり、比較的安価な物でできる生理学的実験をメインに行ってきた。次年度以降で本格的に分子生物学実験およびホルモン定量、トランスクリプトームといった高額の試薬類を必要とする実験を行うにあたり、初年度は予算を控えめに使用した。さらにトランスクリプトーム解析はサンプル数を増やす必要性が生じたため、今年度繰り越した予算を充てる予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
当初、野生株、四重変異株、過剰発現株のめしべとおしべのトランスクリプトーム解析を行う予定であったが、生理学実験の結果から、花糸、花粉、めしべ、葯にさらに細分化して行う必要性が生じたため、これらをサンプリングし、トランスクリプトーム解析と植物ホルモンの定量を行うことを計画している。当初の予定よりもトランスクリプトーム解析のサンプル数が増えるので、予算的に厳しい場合は次年度と最終年度に分割して行う等の工夫をする。
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