研究課題/領域番号 |
16K18579
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
大原 裕也 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (80771956)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 個体発育 / 核内倍加 / エクジステロイド / ショウジョウバエ / TOR |
研究実績の概要 |
動物個体は幼若期において栄養摂取により成長したのち,ステロイドホルモンの働きにより形態を変化させ成体期へと成熟する.成熟過程を誘発するステロイドホルモンの産生は内在的な発生プログラムにより精緻に制御されており,昆虫の場合,幼虫が栄養を摂取し固有の体重(Critical weight, CW)に到達すると前胸腺と呼ばれる内分泌組織からエクジステロイドが産生される.このことから,昆虫は自身の栄養状態を感知しステロイドホルモン産生をONにするか否かを決定する「CWチェックポイント」を有すると考えられてきたが,その分子実体は未だ不明である.本研究では,ショウジョウバエを用い,このチェックポイントを司る分子機構に迫る. H28年度に,前胸腺において核内倍加と呼ばれる細胞周期の進行がエクジソン産生に必須であること,および,核内倍加の進行はTarget of rapamycin (TOR)およびインスリンシグナルによって制御されることを見出した.核内倍加は分裂期を伴わずゲノムDNA複製を進行させるタイプの細胞周期であり,前胸腺では少なくとも3回の核内倍加の進行がエクジソン産生に必須であった.H29年度では,核内倍加の下流で動く分子メカニズムの一端を明らかにするために,核内倍加が進行した前胸腺細胞のゲノムDNAを次世代シーケンシングにより解析し,複製頻度が低下した「Under Replicated (UR)領域」を見出した,また,前胸腺の核内倍加の進行および個体発育に作用する食餌中の栄養素を解析するために,各栄養素を操作した餌を作出し,アミノ酸が個体成長および変態開始に必須であることを見出した.これらの成果は,昆虫の変態過程および他の動物における成熟過程の制御機構を解明する基盤となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究B-1では,前胸腺細胞のゲノムDNAを次世代シーケンシングにより解析し,複製頻度が低下したUR領域を10程度見出すことができた,前年度では,十分なDNAを得るのに組織の数が不足していたため,H29年度では組織数を1000程度に増やすことで十分なDNAを得ることができた.次いで次世代シーケンシング解析を行い,複製頻度が低下したUR領域を同定した(B-1の達成).前胸腺特異的なUR領域が1箇所存在していたことから,このUR領域がエクジステロイド産生に重要である可能性が考えられる. また,研究A-3では,前胸腺の核内倍加の進行および個体発育に作用する食餌中の栄養素を解析するために,各栄養素を操作した餌を作出し,アミノ酸が個体成長および変態開始に必須な栄養素であること,および,餌からの糖およびリン脂質の除去は個体成長および変態を停止させないことを見出した(A-3の遂行).栄養素と前胸腺の核内倍加との関連解析まで進んでいない理由として,水系の餌にコレステロールをはじめとした脂質を溶解させるために必要な乳化剤の検討に終始したことが挙げられる.
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は,UR領域に位置する遺伝子のGO解析といったin silico解析を行うとともに,UR領域を異所的に導入した個体の表現型を解析する(研究B-2).また,核内倍加・UR領域とチラミンシグナルとの関連解析も進める(研究B-3).チラミンシグナルの活性指標として,チラミン合成酵素であるTdc2の発現およびチラミン量を解析・測定する. 研究A-3では特に,アミノ酸をはじめとした栄養素を除去した餌で飼育した個体の前胸腺における核内倍加およびエクジステロイド産生の活性を解析するとともに,核内倍加の進行を強制的に活性化させた個体は餌のクオリティーによらずエクジステロイド産生を活性化するか否かを解析する.また,アミノ酸をはじめとした栄養素を除去した餌で飼育した個体の前胸腺におけるTORおよびインスリンシグナル等の栄養シグナルの活性も解析する.
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