研究実績の概要 |
本研究の目的は、脊椎動物の原型を有していると考えられるカタユウレイボヤを用いて、MAPKシグナリングを起点とした排卵メカニズムを解明することである。特別研究員の研究課題に関連し、平成29年度までに神経ペプチドの1つがMAPKシグナリングを介してホヤの卵成熟と排卵を促進させることを明らかにしてきた。そこで、平成30年度計画を一部変更し、MAPKシグナリング下流の卵成熟・排卵制御機構について解析を行った。 MAPKの下流でホヤの卵成熟を実行する因子は、他の無脊椎動物および脊椎動物で広く保存されているMPFである事が示唆されていたため、単離したホヤの卵胞をMPFの構成因子であるCdc2の阻害剤を処理したところ、卵成熟が阻害された。また、神経ペプチドとの同時処理によって、神経ぺプチドによる卵成熟促進効果を打ち消すことがわかった。さらに神経ペプチドによって卵成熟を促進させた卵胞を用いて人工授精実験を行ったところ、確かに胚発生が進行し、神経ペプチド→MAPK→MPF→卵成熟という制御カスケードが明らかになった。 MAPK下流の排卵制御機構については、神経ペプチド処理によって排卵が促進され、排卵実行酵素の候補であるマトリクスメタロプロテアーゼ (MMP) 遺伝子の発現が増加することがわかった。また、単離したホヤの卵胞を神経ペプチドとMMPの阻害剤とで同時に処理することで、神経ペプチドによる排卵促進効果が打ち消されることを明らかにした。さらに神経ペプチドの受容体、MAPK, MMPは全て卵母細胞に局在すること、およびMMPは排卵時に脱げる外側濾胞細胞層にも存在することもわかり、コラーゲン分解活性の局在と一致した。以上の結果から、神経ペプチド→MAPK→MMP→コラーゲン分解→排卵という制御カスケードが明らかになった。
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