本研究課題ではワモンゴキブリがもつ二つの独立した嗅覚並行経路でどのように嗅覚情報が抽出・符号化されているかを明らかにすることを最終的な目的として研究計画を立案した。ワモンゴキブリの脳内では1型投射ニューロンと2型投射ニューロンの二種類の二次嗅覚ニューロンからなる嗅覚平行経路が存在し、この二つの投射ニューロンの嗅覚応答の時空間的な応答パターンは一時嗅覚中枢である触角葉内でこれら二つの神経経路を架橋する局所介在ニューロンによって形成されている。 平成30年度はこれらの二つの神経路に入力する嗅感覚細胞に注目した研究をおこない、触角上で嗅感覚細胞がどのように発生し、中枢へと動員されていくかを形態学的に明らかにした。この研究成果については平成30年度に論文として報告した。加えて、電気生理学的手法を用いて、嗅感覚細胞の応答スペクトラや応答特性を明らかにした。特に、フェロモン刺激をモデルに、嗅感覚細胞の応答潜時を明らかにし、投射ニューロンの応答潜時と比較を行っている。この研究成果については現在論文として投稿準備中である。 加えて、前年度より引き続き、神経活動依存的に細胞内でリン酸化されるマップキナーゼであるpERKの抗体を用いた抗体免疫染色法を行い、その方法を確立した。特に、フェロモンのような特定の匂いによって、大糸球体に樹状突起を持つ投射ニューロン群が選択的に活性化され、その下流にあるフェロモン応答性のキノコ体ケニオン細胞群も同定した。現在、特定の匂いによって1型および2型投射ニューロンと局所介在ニューロンがどの程度活性化されるかについても研究を進めている。今までの研究では細胞内記録を用いて単一もしくは少数の神経の応答を解析していたが、この方法が確立されたことにより、脳内で起こる事象をより包括的に観察することが可能になった。
|