ゲノムは、エンハンサーとプロモーターの相互作用が許容されるTopologically Associating Domains(TAD)という小区画を形成し、そのゲノム領域を単位として遺伝子の発現制御が組織化されている。本研究では、Shh遺伝子座が存在するTADをモデルとして、この領域に複数存在するエンハンサーが、Shh遺伝子と隣接遺伝子を見分けて適切に作用する仕組みの解明を目的として解析を行った。 CRISPR/Cas9 系を利用して、Shhの隣接遺伝子であるLmbr1周辺に60 kbの欠失を有するマウス系統を作製した。このアレルをホモで持つマウス個体は、合指や欠指の四肢形成異常を示しており、対象の領域に四肢で機能する新規のシス因子を含むことが示唆された。60 kb欠失変異マウスの発現解析の結果、Shhが発現低下していることが明らかになり、この四肢形成異常は新規シス因子の欠損に伴うShhの発現制御不全であることが示唆された。また、この欠失変異マウスはLmbr1周辺の別の遺伝子であるMnx1の発現が上昇していた。このことより、新規シス因子が単純なエンハンサー配列ではなく、TADの維持に関与し、近隣の遺伝子の発現を正にも負にも制御する可能性が考えられた。 この配列に結合する転写因子を同定するため、パブリックデータベースの情報を基に結合因子の候補をリストアップした。さらにin vitroでの結合能をゲルシフトアッセイで評価し、候補因子の一つとしてPrdm1を同定した。培養細胞中でShhの肢芽エンハンサーを用いたルシフェラーゼアッセイでは、Prdm1がShhの肢芽エンハンサーの転写活性能に影響することが確認できた。
|