研究課題/領域番号 |
16K18592
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
谷口 順子 筑波大学, 生命環境系, 特別研究員(RPD) (60743127)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | セロトニン / Troponin I |
研究実績の概要 |
前端部神経外胚葉のセロトニンが腸管形成に関与する過程の解析を行った。まず、セロトニン合成経路の阻害下における腸管形成解析を行うために、セロトニン合成酵素TPHのモルフォリノアンチセンスオリゴによる翻訳阻害胚を用いた。TPH翻訳阻害胚は胃腸が小さく腸管形成が正常に行なわれていないと予測されたことから、食道周辺や胃腸の筋肉組織に対する抗体を作成し、正常胚における腸管筋肉組織の形成過程の解析を行なった。その結果、筋肉の収縮機能に関わるTroponin Iは食道の筋肉繊維の他、噴門、幽門、肛門の筋肉に発現していた。Troponin I機能抑制胚ではほぼ食道の動きがみられずエサである珪藻が取り込まれなくなった。一方でセロトニン合成酵素TPHにおけるTroponin Iの発現パターンを解析したところ、それぞれの筋肉組織の発達は正常胚と比較して、ほぼ変化が見られず、エサを取り込む食道の動きも正常通り見られた。TPH阻害胚における小さな胃腸の形成はエサの取り込み不全から2次的に生じているものではなく、セロトニンが形成過程に直接関与している可能性がより強く示唆された。また前端部神経外胚葉からはアクソンが腸管に向けて伸長している様子が観察されたため、その詳細なパターンを神経特異的因子であるSynaptotagminBの検出により明らかにしてきた。これまで報告されていない神経パターンの存在が確認されていることから、割球へ蛍光色素を顕微注入した胚でのSynaptotagmin Bの検出を行い、その細胞のそれぞれの由来についても解析を進めてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウニ胚の腸管の筋肉組織にTroponin Iが発現していることを初めて明らかとし、予定していた以上に速やか結果を得ることができ、本年度中に論文として報告した。これまでウニ腸管に存在する筋肉や神経の詳細はほぼ報告されておらず、本研究によりそれらの基礎的データを示すことができた。セロトニンの腸管形成への機能解析に関しては、セロトニン合成酵素TPHの阻害剤における解析が順調に進行しているが、セロトニン受容体についてはその空間的発現パターンをまだ正確に示すことができていない。一方でセロトニンそのものの空間的発現パターンは明らかになってきていることから、受容体の発現パターンを同時に示すことができれば、セロトニンが腸管に存在するという結論をよりサポートできると考えており、さらなる解析を進める予定でいる。
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今後の研究の推進方策 |
腸管の形成や機能を解析する上で、腸管の筋肉及び神経の存在を明らかにする必要があり、これまでの筋肉の解析に引き続き、各種神経形成過程の詳細についても主にSynaptotagmin B抗体を用いた解析を進める。また、セロトニン神経機能の下流で転写誘導される遺伝子を同定・単離するために、セロトニン受容体5HT7阻害胚によるRNA-seqを行う予定でいたが、5HT7の空間的発現パターンがまだ明確になっていないため、次のステップへと研究を進めるのにはリスクがあると考える。そこで、当初から計画通り進まない時の対応として予定していたセロトニン合成酵素TPH阻害胚を用いた下流因子探索にも重点を置くこととする。TPH阻害胚を用いてセロトニンの胃腸形成への影響についてより詳細な解析を行うとともに、今後はTPH阻害胚を用いたRNA-seqによる解析を実施することにつても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はセロトニン神経が腸管形成を制御するメカニズムを解明する新規の研究であるが、所属研究室が長年セロトニン神経発生を中心に研究をすすめてきていたため、セロトニン神経系に関係する各種mRNAプローブ、各種モルフォリノアンチセンスオリゴ(遺伝子の翻訳阻害剤)をすでに保持しており、使用計画よりも消耗品等にかかる額が少なく本年度の研究計画を予定通り進めることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はセロトニン神経機能の下流で転写誘導される遺伝子の同定や単離を行う予定でおり、実験作業に多くの時間を要することとなる。そこで当初の使用計画に加えて、次年度使用額を研究補助員の人件費として利用することで、実験の効率化を図る。
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