研究課題
ルソンメダカ、セレベスメダカ、インドメダカ、ハブスメダカ、ジャワメダカのBACライブラリーからHCE遺伝子のスクリーニングを行い、それぞれ3、8、3、1、7クローンを同定した。これらのBACクローンの全長配列の決定を行い、スクリーニングを行った5種すべてのHCEクラスターの配列を得ることができた。メダカ属は大きく3つの系統に分けられている。それらはラティペスグループ、セレベスグループ、ジャワグループである。このうちジャワグループには、今回クラスター構造を明らかにしたインドメダカ、ハブスメダカ、ジャワメダカの3種が含まれる。この3魚種のクラスター構造は転写方向を含めてよく保存されていた。また、ラティペスグループにはルソンメダカと全ゲノム配列が決定されているミナミメダカが属しており、両魚種間でクラスター構造は類似していたが、ジャワグループの構造とは異なっていた。セレベスグループからはセレベスメダカ1種のみしか解析できていないが、他の2グループの構造とは異なっていた。これらの結果から、グループ内ではクラスター構造が保存されているもののグループ間では保存されていないことが示唆された。興味深いことに、ラティペスグループのみでHCE様遺伝子であるAHCE遺伝子がHCE遺伝子クラスター内に見つかった。ミナミメダカのゲノムには1個のAHCE遺伝子と1個のAHCE偽遺伝子があった。ミナミメダカのAHCEの組換えタンパク質を作製して卵膜分解活性を調べてみたところ卵膜分解活性が低かった。一方、ルソンメダカでは2個のAHCE遺伝子が見つかるが、HCEは1個のみがゲノム上にあり、3つのHCE遺伝子が偽遺伝子化していることが分かった。これらの結果から、ルソンメダカでは偽遺伝子化したHCEの代用として機能している可能性もあると考えられため、今後明らかにしたい。
2: おおむね順調に進展している
BACライブラリーのスクリーニングおよびクローンの配列決定により、5種類のメダカ属のHCEクラスターの構造を明らかにすることができ、HCE遺伝子の環境適応進化を調べるための今後の実験の土台を作ることができた。
5種のメダカ属魚種のHCE遺伝子のクラスター構造を明らかにすることができた。今後は各HCEの組換えタンパク質を作製し、卵膜分解における至適塩濃度を調べることにより、各HCE遺伝子が淡水型酵素なのか塩水型酵素なのかを明らかにする。さらに、ミナミメダカの2種類のHCE(MHCE21とMHCE23)の配列をそれぞれ部分的に入れ替えた変異組換えHCEを作製することにより、至適塩濃度の違いをもたらすアミノ酸残基を同定する。これらの結果を総合的して、メダカ属の進化過程でどのようにしてHCE遺伝子が至適塩濃度の違いを示すようになったかを考察する。セレベスグループに属する魚種はこれまでのところセレベスメダカのみHCEクラスターの構造を明らかにできている。今後は同グループに属する他のメダカ(ウォウォラエメダカやマルモラータスメダカ)のHCEクラスターの構造を明らかにする。特に、ウォウォラエメダカは淡水でのみ生息できることから、生息地とクラスター構造の関係について考察できることが期待される。ラティペスグループのみにAHCE遺伝子が存在することが分かった。このグループ内で最も原始的な種としてメコンメダカがいる。そこで、メコンメダカのHCEクラスターの構造を明らかにすることで、AHCE遺伝子の進化過程を明らかにできるだろう。また、ミナミメダカにおいてAHCEは卵膜分解活性が低く、その機能はまだわかっていない。今回、ルソンメダカにおいてAHCE遺伝子が2個見つかったことから、AHCE遺伝子が孵化酵素としての機能を持つことが期待される。そこで、ミナミメダカやルソンメダカにおけるAHCE遺伝子の発現をRT-PCRやin situハイブリダイゼーション法により明らかにするとともに、孵化液(卵飼育液)からAHCEを精製し、その機能を明らかにしたい。
残高がわずかであり、試薬を購入できる金額ではなかったため、次年度に繰り越した。
2017年度に消耗品の購入資金として使用する。
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Journal of Experimental Zoology Part B: Molecular and Developmental Evolution
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1002/jez.b.22729