研究課題
まずヌタウナギについて、既に作成されていた発生段階の胚の切片スライドから3Dリコンストラクションを作成し、内耳の発生の連続的な変化を観察することに成功した。その結果、ヌタウナギの単一半規管は、発生上二半規管から融合して形成されるのではなく、直接ドーナツ状の半規管が形成されることが分かった。次に、ヌタウナギの半規管は前後に対称な形に見え、他の脊椎動物では一つしかない前庭神経節も前後に2つ存在するため、内耳の前後軸形成と神経節形成に関わる転写因子Tbx1の発現を観察したところ、その発現は他の顎口類と同じように後方に限局した発現を示した。また、今後の解析のため、8月にヌタウナギを採集し、そこから受精卵を得ることに成功している。ヤツメウナギについては、内耳の発生、とりわけ水平半規管の発生に必須な遺伝子Otxの新規パラログをヤツメウナギで同定し、既知の3種のOtxと合わせてその内耳における発現を観察したところ、そのすべてにおいて内耳での発現が観察されなかった。これはOtx1ノックアウトマウスが水平半規管を欠くことと一致しており、極めて興味深い。また、顎口類ではOtx1の発現を制御する転写因子Six1や、その下流遺伝子の発現も現在解析中である。また、進化の推定のためには、円口類の両系統、すなわちヌタウナギとヤツメウナギの発生を解析し、顎口類と比較することが重要である。このことを指摘した総説を書き、受理された。現在印刷中である。
2: おおむね順調に進展している
ヌタウナギの胚を予想以上に得ることができた。また、既存の標本スライドからも多くの半規管の形態発生について情報を得ることができた。ヤツメウナギの胚も順調に得られており、内耳形成に関連する遺伝子の網羅的解析に進むための有益な情報が得られている。
ヌタウナギについては、初年度で得られた胚からパラフィン切片を作製し、形態の観察に使用する一方、さらなる遺伝子の発現解析も行いたい。ヤツメウナギで得られた結果から、Otx1ノックアウトマウスが、ヤツメウナギのフェノコピーを示している可能性が示唆された。これを解析するため、Otx1ノックアウトマウスと野生型マウスの内耳に発現している遺伝子を網羅的に解析し、顎口類が水平半規管を獲得するためには、どのような発生メカニズムの改変が必要であったのかを考察したい。
実験試薬の購入に多少の増減が生じたため。
試薬の購入に充てる。
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Development, Growth & Differentiation
巻: in press ページ: in press
Journal of morphology
巻: 277 ページ: 1146-1158
10.1002/jmor.20563