北海道の希少植物には,東北アジア近隣国にも分布する種や,北海道固有種とされる一方で東北アジアの近縁種と同種とする見解もある種が含まれる.本課題ではロシア,中国,韓国の機関と協力して,国家間の分類混乱を解消し,国内外集団の遺伝的関係を解明することで,効果の高い保全に資することを目的とした. 北海道の希少植物の保全優先度を評価するため,一つの基準として固有性を検証した.夕張岳に産するユウバリクモマグサとユウバリソウ各々について,次世代シーケンス,染色体,形態データから周極広域種の同種とする説を否定した.両種は蛇紋岩地で分化した道固有種で,保全価値が高いことを論じた.一方で,礼文島に産するフタナミソウは東北アジア広域種ホソバフタナミソウの1系統とわかり,固有種扱いは適当でない.固有性が否定された種の保全優先度はグローバルな視点では高くなく,その保全価値は分布地域の生態系の構成要素として認められる. 東北アジア近隣国に共通する希少種の遺伝的分化パタンを解明し,その保全上の示唆を得た.エンビセンノウは日露中韓の環日本海に分布する.遺伝解析の結果,北海道集団は極東ロシア集団に,長野集団は韓国や中国の集団に近縁とわかった.本種は極東ロシアから北海道へ,また,朝鮮半島から本州へと,南北2ルートで日本に進入したと推測される.環日本海に分布する希少植物の保全では,日本の南北の集団が種内で最も遺伝的に分化している可能性を考える必要がある.同様の分化パタンが他種でも確認されたことから,環日本海の希少植物の一般的パタンであるのか今後検証を進める.エンビセンノウの北海道集団については,光環境と結実率の関係や,植物園の域外保全株の遺伝的汚染の有無も明らかにし,地権者や行政と協力して植え戻し計画を策定した. 本課題を通じてロシアの2つの植物園と学術協定を結び,2回の主催シンポジウムで本研究の成果を社会発信した.
|