本研究の目的は,底生動物がいかにして不安定な海藻葉上での固着生活を獲得するに至ったかについて理解することである.底生動物の一群であるタナイス目甲殻類は,単純な海藻葉上進出史が期待され,かつ同生活様式実現に必須である「把握」と「固着」に関わる形質に,進化的中間段階と考えられる形質状態を示す種が報告されている.そのため本研究ではタナイス類をモデルに,形態学的,分子系統学的手法を用いて,タナイス類の海藻葉上固着生活獲得までの進化史を明らかにすることを目指している. 今年度は,主に以下のような成果を挙げた.(1)日本から報告のなかったパラタナイス上科の1科の生息を新たに確認した.同種は未記載種と判断されたため,記載論文を執筆した.同論文については,現在査読付き英文誌に投稿中である.(2)系統解析に用いる予定の種で未記載種であると判断されたもののうち,1種について記載論文を執筆した.同論文については,査読付き英文誌から掲載受理の知らせを受けた.(3)ウミガメ体表性種として知られる糸上科の1種を人工環境から初めて発見した.同成果については査読付き英文誌に投稿,既に出版された.加えて副次的な成果として(4)調査の過程で得られたタナイス以外の深海生無脊椎動物について共同研究を実施した.うち1種については再記載論文を執筆し,査読付き英文誌から掲載受理の知らせを受けた.いくつかの成果は学会大会において報告を行った.
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