研究課題/領域番号 |
16K18599
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
中村 玄 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (50751913)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミンククジラ / 骨格 / 系群 |
研究実績の概要 |
鯨類をはじめとする野性生物の個体群を適切に維持・管理するうえでは系群単位での管理が求められている。本研究で対象としているミンククジラはナガスクジラ科に属する鯨類であり、太平洋、大西洋、南半球に広く分布している。主に遺伝学的研究により、太平洋産のミンククジラには二つの系群が存在し、特に日本沿岸域では両系群が混在していることが明らかになっている。一方、遺伝学的情報以外、特に形態学的な系群間の違いは十分明らかにされていない。そこで本研究では、日本沿岸域におけるミンククジラの系群構造解明に貢献するため、系群間での形態学的な違いを明らかにすることを目的として研究を進めている。日本政府が実施している第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)において、頭骨形態や外部形態(胸鰭・尾鰭などの体色)に関するデータ収集を行った。同時に遺伝学的手法に基づき明らかにされた系群情報と照合することにより、系群間での形態比較を行った。予備的な解析の結果、頭骨形態にこれまで報告されていなかった系群間の違いが存在することが示された。同様に、頭骨形態に比べ多くのデータが収集できた外部形態についても、系群間での顕著な違いが認められ、遺伝学的のみならず形態学的にも系群間で異なることが示唆された。これらの結果については今後、学会発表をおこなうとともに、十分なデータが集まり次第、論文執筆を行う予定である。同様に、太平洋のミンククジラと別亜種とされている大西洋のミンククジラについても調査をおこなった。現時点では単年のみの調査であるため、標本数は頭骨形態、外部形態ともに十分でなく、予備的な解析に留まったものの、ともに亜種間においても顕著な違いがあることが認められた。今後もノルウェーおよびアイスランドの研究者らと調整し、サンプリング計画を策定するとともに、データ収集をおこない、亜種および系群間での包括的な形態比較を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では日本政府が実施している第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)において、これまで収集されてきたミンククジラのデータ(外部形態(体色)・頭骨形態・遺伝情報)に加え、2016年度に実施された調査におけるデータを併せて比較分析を行う予定であった。しかし、過去に蓄積されていた体色などのデータは、撮影条件などが系群間の詳細比較に適さないものも多くあったほか、2016年度の採集個体が天候等の関係で予定頭数の四分の一程度に留まったこともあり、当初の想定よりも少ない標本しか確保できなかった。しかしながら、これらのデータをもとに予備解析をおこなったところ系群間での違いを明確化することができた。今後もデータの増強が必要ではあるものの、ミンククジラの胸鰭、腹面、尾鰭腹面の色が、系群間で異なることが示唆され、特にJ系群に属する個体は全体的に体色の白色割合が高いことなどが示された。また頭骨形態においても、頭骨の幅などが系群間で形態学的に異なる可能性も示唆された。現時点での進捗としては標本数が予定より確保できなかったという課題が挙げられるものの、予備解析の結果は想定以上のものであり、この点の進捗は基本的には予定通りであると言える。また、2017年度以降、データの拡充を図るとともにより詳細な分析を行い、学会発表や論文作成などを行う予定である。 また、当初想定していなかったが、ミンククジラの系群より一つ上のレベルの分類群である亜種間での比較の必要性が生じたこと、また、標本採集の目途がついたことから、予備調査としてノルウェーの商業捕鯨船において大西洋産ミンククジラの調査を行うことができた。これにより、系群間での違いをより多角的に評価できるようになり、当初の予定より大きな進展であった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きミンククジラの外部形態および骨格形態に関わるデータ収集をおこなう。第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)は2016年をもって終了した。2017年度以降、日本政府は新たな調査計画を企画しており、本調査の主目的の一つにミンククジラの系群構造解明も含まれている。本研究プロジェクトを予定通り実施するためにも、引き続き、新たな捕獲調査を通じてデータ収集を行う。ミンククジラの体色に関しては昨年同様、胸鰭、腹面、尾鰭腹面の白色面積比に着目して解析をおこなう。これに加え、洋上での識別に最も有用な背鰭の形態についても、系群間での違いの有無について検討する予定である。さらに、亜種間で本種の胸鰭に占める白斑の相対的な大きさや形状も指標になる可能性が示されたことから、これらのデータについても可能な限りデータ収集及び解析を行う。研究計画においては回遊ルートの解明につながるデータロガーの開発も含まれており、これについても上記の作業に並行して取り組む予定である。また、2017年度もしくは2018年度内において、2016年度に予備調査をおこなったノルウェーでの商業捕鯨での調査について関係者間で再度調整をおこない調査を計画している。最後に頭骨形態に基づく亜種間の比較のため、アメリカのスミソニアン博物館を中心とした調査も計画している。上記のデータをもとに解析をすすめ、学会発表や論文執筆で、ミンククジラの亜種、また系群間での形態学的比較結果を公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ収集のための調査に関わる期間が当初の予定に比べ短くなったため、8.5万円ほどの余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の研究計画では含まれていなかったが、調査の進展により得られた亜種間での形態比較研究について、研究成果を報告の英文校閲や出版費などに充てる予定である。
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