研究課題/領域番号 |
16K18602
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡本 卓 京都大学, 理学研究科, 助教 (80554815)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遺伝的変異 / 第四紀気候変動 / 季節性 / 温度生態 |
研究実績の概要 |
ヒガシニホントカゲの国内分布域のほぼ全域から採集された,当研究室所蔵の既存標本を用い,DNA塩基配列の収集および分子系統解析と分岐年代推定を行った.その結果,本種で最も古い分岐が東海・北陸~紀伊半島の集団と中部地方~北海道の集団の間で生じたものであり,その分岐は更新世初期の飛騨山脈・木曽山脈の隆起による分断が原因であることが示唆された.また,先行研究で明らかになっていたこれら2系統の中間的遺伝集団が,中期更新世に生じた二次的接触により形成されはじめたこと,2系統と中間的集団の間の遺伝的交流は一過性のものではなく継続的に生じていることが明らかになった.また,中部~東北日本集団の中で特異なDNA型と形態形質を持つ青森県産集団とそれ以外の集団の分岐年代がおよそ100万年前であることが明らかになり,東北北部の火山地帯の活動開始と更新世の寒冷化の複合的作用によりこれらの系統が分化したことが示唆された.加えて,遺伝的多型の分布パタンから,東北~北海道に明瞭な創始者イベントの痕跡が認められた.この成果について,8月に中国で開催された第8回世界爬虫両生類学会議で発表した. 近縁種ニホントカゲの季節性と温度生態の野外調査を京都市内で行い,野外でのデータ収集方法を検討するとともに,東北・北海道のトカゲの生態との比較のための基盤となるデータを収集した.そのデータから,トカゲの活動性と体温調節が日照に強く依存する傾向が示唆された. 東北北部・北海道において,初秋に野外調査を行った.これにより,東北北部・北海道において,温度生態と季節性の調査地点を数箇所選定するとともに,北海道と東北北部の間で,利用している微環境に違いがあることを示唆する予備的な結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マイクロサテライトデータの収集が当初予定していたよりも進展せず,DNA実験とそのデータ解析などに時間がかかったため.これは,DNAサンプルの品質測定結果から,一部のDNAサンプルが劣化していたことが原因と考えられる.これらの作業に時間を割いた結果,分布情報収集とGISデータの収集と整形作業が進まなかった.
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今後の研究の推進方策 |
前年度の野外調査結果に基づいて継続調査地点を決定し,東北北部と北海道における季節性と利用微環境の地理的変異解明のための野外調査を遂行する.特に,春~初夏および晩夏~秋に集中的に調査を行い,冬眠の開始・終了時期の地理的変異解明,および高緯度地域における地熱地帯とそうでない地域における体温調節行動の変異解明に向けたデータ収集を進める. また,劣化していたDNAサンプルについて,組織標本からのDNA抽出のやり直しを行い,良質のDNAデータ収集を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費については当初の想定よりもやや高額になったが,DNA実験等に係る費用の節約により消耗品費を抑えられたため.
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次年度使用額の使用計画 |
DNA実験については組織標本からの再抽出などにより前年度に比べ多額になる見込みである. 旅費については,前年度より野外調査の回数が多くなる見込みだが,前年度の調査行程の検討と調査対象地域の絞込みにより,旅費については費用対効果を高めるよう工夫する.
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