太古の昔に生じた中米地峡の形成により、海の生物は太平洋と大西洋とに隔離された。この隔離が数百万年もの長期間に渡り続いたことにより、数多くの海の生物が異所的な種分化をしたことが知られている。宿主となる生物が種分化をした時、その体内で生活する寄生虫はその変化にどのように対応するのであろうか?本研究では、中米地峡沿岸の潮間帯に生息する巻貝に寄生する吸虫類に着目し、中米地峡の形成と宿主の種分化が寄生虫の多様化に及ぼした影響を分子遺伝学的視点・形態学的視点から明らかにすることを目的とする。 昨年度に引き続き、中米の潮間帯に生息し多くの吸虫類の宿主となるCerithideopsis属の巻貝のゲノムDNA解析を行った。解析方法を再検討することで、中米地峡を越えた拡散が生じた時期や雑種形成によるゲノムDNAの混合割合などを算出することができた。これらの解析により、Cerithideopsis属の巻貝はパナマ地峡が形成された約300万年以降に複数回にわたり中米地峡を越え、そして拡散後の雑種形成により複数種が種分化していたことが明らかになった。これらの結果は現在論文としてまとめている最中である。 上記の解析と並行してCerithideopsis属の巻貝の寄生虫である吸虫類のゲノムDNAの解析も行った。吸虫類のゲノムDNAをddRAD法により解読したところ、本研究に先立って行われたミトコンドリアDNA解析結果と大まかな一致が見られた。ゲノムDNA解析およびミトコンドリアDNA解析の結果は、形態的特徴により分類された吸虫類に多くの隠蔽種が含まれることを強く示唆する結果となった。これらの隠蔽種の地理的分布や多様化のパターンは、地理的障害や宿主の分布及び宿主特異性の影響を色濃く受けている可能性が高いと考えられる。
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