イチジク属樹木とイチジクコバチは種特異的共生関係にあり、イチジクはイチジクコバチに増殖場所を提供し、イチジクコバチはイチジクの花粉を運ぶという送粉共生システムが知られている。オオバイヌビワ(イチジク属樹木)の果実内部は、外部との接触が限られているにも関わらず、近年、イチジクコバチ以外の生物(線虫、糸状菌、細菌)が生息していることが明らかとなってきた。本研究は 、植物、昆虫、線虫、微生物の共進化の過程を明らかにするため、「イチジク」、およびイチジクの果実内に生息する、「イチジクコバチ」、「線虫」、「微生物」の遺伝的多様性および生態的特性の解明を行うものである。 本研究の最終年度となる2018年度は、与那国島から与論島までの沖縄県全土から採集・作成された60株の線虫からDNAを抽出しSNPs解析を行い、線虫の地理的な系統関係を明らかにした。加えて、これまでにゲノムを読んだ石垣島の由来の1株に加え、沖縄本島の1株の全ゲノムを読みリファレンスゲノムを完成させた。その結果、線虫は、石垣島と宮古島の境界線で遺伝的に大きく異なることが明らかとなった。これは、地理学的にも理にかなったものである。さらに、イチジク果実内の細菌叢を詳しく調べたところ、複数種の細菌がイチジクコバチによって果実から果実に運ばれていることがわかり、そのうちの一部は線虫の増殖に負の影響を与えることが示唆された。この細菌はイチジク内での線虫の増殖を抑えてイチジクコバチの生育にいい影響を与え、イチジク-イチジクコバチ-線虫の関係の中で重要な役割を担っている可能性がある。これらのことから、イチジクに関連する生物学群の共進化には、地理的要因に加え生物種間の影響が寄与していることが考えられる。
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