研究課題/領域番号 |
16K18609
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
藤谷 拓嗣 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 次席研究員 (50708617)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 亜硝酸酸化細菌 / 硝化 / Nitrotoga / Nitrobacter / 海水 / 土壌 / バイオリアクター / 分離培養 |
研究実績の概要 |
硝化細菌は環境中のアンモニアを亜硝酸,硝酸へと変換する硝化反応を担っている。近年,メタゲノム等の遺伝子解析により,環境中には系統学的に新規な硝化細菌が豊富に存在している可能性が示唆されている。しかしながら,実験室での分離培養が難しく,古典的な培養手法への依存が純菌株の獲得を制限している。そこで本研究では,工学的なアプローチに基づいた分離培養手法を用いて,各種環境サンプルから新規な硝化細菌を獲得し,性状解析を行うことを目的とした。本年度は,硝化反応が活発なフィールド(アマモ場群落の海水,茶畑の酸性土壌)からサンプルを採取し,新規な亜硝酸酸化細菌を標的とした集積・分離培養を行った。具体的な実施内容は以下の通りである。
1.アマモ場群落の海水サンプルを対象に,バイオリアクターによる連続培養とフラスコによる回分培養を組み合わせ,Nitrotoga属に属する亜硝酸酸化細菌を集積培養した。Nitrotogaは低温性の亜硝酸酸化細菌として知られており,様々な環境中にクローンレベルで検出されているが,集積株,純菌株は非常に少なく,その生理生態について詳細は明らかになっていない。そこで,本研究で得られたNitrotoga集積株の生理学的な性質を明らかにした。
2.茶畑の土壌サンプルを対象に,バイオリアクターを用いて,土壌に棲息する亜硝酸酸化細菌の集積化を図った。培養中,定期的にFISH法および次世代シークエンサーによる微生物叢解析を実施した。その結果,集積サンプル中には複数種の亜硝酸酸化細菌が共存し,生態学的なニッチを形成していることが明らかになった。FISHで検出された亜硝酸酸化細菌については,セルソーターを用いて分取・培養を試みたところ,Nitrobacter属に属する純菌株を獲得することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アマモ場群落の海水サンプルについては,バイオリアクターによる連続培養とフラスコを用いた回分培養を繰り返したことで,Nitrotoga属に属する新規な亜硝酸酸化細菌Nitrotoga sp. AM1の集積株を獲得することに成功した。集積されたAM1株は,16℃で最も高い亜硝酸酸化活性を示し,従来知られている亜硝酸酸化細菌の中でも比較的低温域で機能していることが明らかになった。AM1株の倍加時間はおよそ54時間であった。また,アンモニア濃度による感受性を調べたところ,30mM以下のアンモニアでは,亜硝酸酸化活性が向上したことから,AM1株は窒素源としてアンモニアを取り込む可能性が示唆された。また,0.5%以上の塩濃度に対して増殖阻害が確認されたため,AM1株は海洋性ではなく陸域から流れ込んできたものと考えられる。 一方,茶畑の土壌サンプルについては,バイオリアクターを用いて土壌に棲息する亜硝酸酸化細菌の集積化を図った。培養中,定期的にFISH法および次世代シークエンサーによる微生物叢解析を実施した。その結果,集積サンプル中には複数種の亜硝酸酸化細菌が優占していることが明らかになった。pHの変化に伴い,優占する亜硝酸酸化細菌の種類も変動することを見出した。続いて,集積サンプルを対象にセルソーターで亜硝酸酸化細菌が形成するマイクロコロニーを分取した。一定の培養期間を経て,増殖が確認されたウェルについてシークエンスを同定したところ, Nitrobacter vulgarisに近縁な株を獲得することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
アマモ場群落の海水から集積されたAM1株については,ゲノム解析を実施し,Nitrotoga特有のゲノム情報を調べる。特に,Nitrotogaの培養が難しい理由をゲノム情報から推察し,純化に向けた方法論を構築する。また,Nitrotogaはある特定の微生物と凝集体を形成することから,共生関係の有無を調べる。特に,独立栄養性細菌と従属栄養性細菌の関係性に着目していく。 土壌サンプルについては,引き続き,多様な亜硝酸酸化細菌の分離培養を目指す。特に,酸性環境に適応する新規なNitrospiraの存在が示唆されていることから,好酸性Nitrospiraの獲得を目指す。純菌株を獲得した後,Nitrospira,Nitrobacterの比較ゲノム解析を実施する。酸性適応機構に関与すると思われる遺伝子に焦点をあて,遺伝子発現解析・生理活性実験も行う。 一方,近年アンモニアから硝酸までの硝化反応を一つの細菌が担うComammox細菌の存在が確認されている。本研究においても,活性汚泥サンプルをサンプルソースに加え,環境サンプルのバリエーションを増やすとともに,新たにComammox細菌もターゲット細菌に加え,集積と分離培養を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験消耗品に割り当てていた費用のうち,一部の費用は他の助成金で補填することができたため,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
実験消耗品の一部として,使用する予定である。
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